2011年12月31日土曜日

鳥と地球

午後4時半。あたりは暗くなり始めます。
電気をつけずに窓際で本を読んでいると、少年が近づいてきました。

色紙でつくった鳥を見せにきたのです。
その鳥はジョンブリアンの身体に、深い緑の羽を持っています。

暗くなった部屋の床に、小さな白いボールが転がっているのが見えました。
その球は輝くほど白く見えたので、月みたいだねと彼にいうと、あれは地球だと答えました。

不思議に思ったので、地球を見たことがあるのかと尋ねると、彼は僕から離れていきました。

2011年12月24日土曜日

ex-chamber museum

幕内政治さんのex-chamber museumにNICHE GALLERYでの個展「遠近」のレビューを書いていただきました。

作家にとって、このような文章を書いていただくことはとても励みになります。

今回の展示テーマである、イメージと現実との距離にも言及していただいています。
また展示作品の画像も多く載っていますので、是非ご覧になってください。

2011年12月23日金曜日

美じょん新報

美術新聞である「美じょん新報」の中で、先月のNICHE GALLERYでの個展を、瀧悌三先生が批評してくださりました。短い文の中に、若い作家への励ましが込められており、とてもうれしかったです。

この美術新聞に載せていただくのは今回で4度目です。いつかお会いして、感謝の言葉を伝えたいと思っています。


美じょん新報 第147号
ビジョン企画出版社

2011年12月21日水曜日

色と記憶

町工場の二階の窓が開いています。
電車から見えた、三河島の風景です。

窓辺には黄色と青のブラウスを着た女性が立っています。
こちらからの視線にはまるで気づかずに、華奢な水差しで花に水やりをしています。

この光景を見たのはまだ僕が大学生だった頃です。
町工場の煤けたグレーとブラウスの色との対比が鮮烈で、今もそこを通るたびに、目が彼女を探してしまいます。

2011年12月16日金曜日

オレンジジュース

駅のホームでオレンジジュースを買いました。
電車に乗ると、どこからか強い視線を感じます。

向いに座っている女の子が僕の手元を見ていました。
彼女がジュースを飲みたがっていることは明白です。

僕はどうしていいのかわからず、意味もなく笑ったような顔をして、席を移動しました。

彼女をがっかりさせてしまったに違いありません。

2011年12月15日木曜日

美しいもの

今日はベランダから、3つの流れ星を見ることができました。
すべてはっきりと覚えています。
本当に、本当に美しかった。

2011年12月11日日曜日

ぼやけた輪郭

皆既月食。
大地の背中を燃えさかる太陽が強烈な光と熱で照りつけ、月に我が身の存在を焼き付ける。

僕はベランダで一人、横たわってそのときを待ちました。

月はだんだんと地球の影に隠れ、三日月のようになります。

赤みを帯びてきた月。
あと少ししたら、閃光のような白が完全に消え去り、そこに逆さまの大地を見ることとなるでしょう。

けれどそこに現れたのは煮え切らない輪郭。
地球の影は、なんてぼやけているんだろう。
これが現実なのだと、悲しい気持ちになり、僕はため息をつきました。

今日は朝まで起きていようと思います。
こんな日は、少しでも早く太陽を見たくなるのです。

2011年12月9日金曜日

口笛

大抵の裏塀の上は、猫の道になっています。
塀には人型のシミがあって、子どもはそれに意味を与え、おもしろがったり、怖がったりするものです。

家の影になり、湿った地面には、地蜘蛛が巣を作ります。
塀に張り付いた白い綿のような巣を引っ張ると、蜘蛛があわてて出てきました。
それだけのことです。

ある日、捨てられた自転車のかごに入っている蛇の抜け殻を見つけました。
蛇は濡れた身体を左右に揺らし、音もなく草むらを抜けていったのでしょう。

夜になるのを待ち、縁側でこっそり口笛を吹きました。
蛇は姿を現しません。

僕は蛇のことなんて、本当はどうでもよかったのです。
ただ、まわりにあるいろんなことにがっかりしたのです。

2011年12月7日水曜日

カラスと目が合う

大通りから小道に入る角のゴミ置き場に、カラスが一羽とまっています。
僕はその角を曲がったところで、決して愉快とはいえない用件を済ませなくてはなりません。
カラスは自転車で近づいてきた僕を一瞥し、またゴミをつつき始めます。

子どもの頃に聞いた、カラスと目を合わせると、寝ている間に眼球を盗まれてしまうという話を思い出しました。
振り向いたカラスを見ると、僕は目を逸らします。
視覚を失いたくないからです。

カラスは人の心を見透かすように行動します。

僕がそのくちばしを恐れていることを彼らはよく知っているはずです。

2011年12月5日月曜日

漱石の絵

立ち寄った古本屋で南画の図録をめくっていると、ひと際妙な絵が目に飛び込んできました。
作者をみると夏目漱石とあります。

これはおもしろいなと早速購入し、部屋でゆっくりと観ることにしました。

山水をモチーフとした作品で、決して上手とはいえませんが、生真面目さを感じる絵です。妙な形の山が丁寧に描かれています。画面の端々まで曖昧な場所がありません。
「青嶂紅花図」という絵は中心に道が通っていて、それを辿っていくと、山間に咲くピンク色の花を見ながら奥の高山の麓までいくことができます。
その道と並んで画面の端に川が流れていることも見逃せません。左下には川を下ってきた小舟が漂っています。
漱石は山道と川の流れで反時計回りの円運動をつくりたかったのでしょう。その証拠に右下には小さく船着き場らしきものを描いています。

技術的にはアングルのバイオリンとはいかないようですが、作画が晩年の楽しみだったのが伝わってきます。

子どもの頃に読んだ「吾輩は猫である」を久しぶりに開いてみました。
はじめの数ページを読んだだけで引きつけられます。

最近はサリンジャーを再読しています。部屋にあるグラースサーガをすべて読み終えたら、漱石を読みなおすのもいいかもしれません。

2011年12月3日土曜日

子どもの絵

小学生の男の子が、学校の授業で描いた運動会の絵を、もう一度描き直すようにいわれたそうです。
理由を訊くと、彼の使う色が黒や紫など暗い色ばかりで、それではちっとも楽しそうに見えないからだといいます。

僕はなんだか可笑しくて「じゃあ僕の絵もきっとダメだね」といって彼と一緒に笑い合いました。

本が好きな彼にエッシャーの画集をあげました。
今はまだよくわからないと思いますが、だんだんと楽しめるはずです。

2011年12月1日木曜日

12月のはじめの日、赤い傘

12月になりました。今日は雨降りと霧の間。
傘はさしてもささなくても、どちらでもいいような天気です。

区役所を通りすぎた辺りで、前方から黄色い落ち葉を蹴散らし、小学生が7人やってきました。
6人の少年。赤い傘の小さな女の子が1人。
すれ違う時、彼女は僕の靴を見ました。
不思議に思った僕は立ち止まり、靴を見直しましたが、特に変わったところはありません。

飛行機の音が響きます。
空を見上げると、鈍色の分厚い雲が低くとどまり、ちらちらと雨が舞っていました。
大勢の人を乗せた飛行機は雲の上を通過しているでしょう。

傘をさした僕はただただ喉の渇きを感じたのです。

2011年11月29日火曜日

今日の出来事

最近は朝早く目が覚めます。今日も午前7時に起きました。
午後2時頃まで絵を描いたあと、気分転換をしようと、本棚から何の気なしにナイン・ストーリーズを取り出しました。
一編目のシーモアが死んだところで早くも眠くなり、窓際に掛かっていたコートを引っぱり、身体に巻き付けてソファーで眠りました。

目が覚めると、外は日が陰っています。
ちょっとした怠さを感じ、何か飲もうと冷蔵庫を開けると、牛乳とグレープフルーツジュースしかありません。どちらも飲みたくなかったのですが、仕方なく牛乳を飲むことにしました。喉に張り付くような気がしましたが、グレープフルーツジュースを選んでいたところで、きっとおいしいとは感じなかったでしょう。
こんなときは何をしても、何を選んでも結果は同じなのです。

風呂に入りながら、ぼんやりとシーモアのことを考えました。

フラニーとゾーイーを開いています。
なんだか学生の頃に戻ったような一日でした。

2011年11月28日月曜日

新しい手帳

年内の予定を消化し、新しい年の手帳を買いに行きました。
ここ数年、同じデザインの手帳を使っています。
小さくて薄いものですが、僕の生活には充分なのです。

帰りに喫茶店に入り、いくつかの事項を買ったばかりの手帳に書き加えました。

NICHE GALLERYでの個展「遠近」にお越し下さった皆様、誠にありがとうございました。

2011年11月24日木曜日

並走する電車

昼下がりの電車。揺れる車内。遠いアナウンス。
建物の間をぬい、いくつかの橋を渡り、大気をかき分け走ります。

遠くの雲を見ていると、だんだんと視点が低くなり、気がつくと暗いトンネルに潜っていました。
車窓には車内の風景が映ります。
並走する逆転した電車。そこに乗っているもう一人の僕。

周りに気づかれないように左手をゆっくりと挙げました。
もう一人の自分が右手を挙げたのを確認すると、なんだかため息がでたのです。

2011年11月21日月曜日

怪魚の背中

夕方の驟雨が街を黒く濡らしました。
街灯やヘッドライトに照らされ、道は魚の背中のようにぬらりと光ります。

突如現れては、水中に深く潜ってしまう、国芳の怪魚。
一緒に駅へと向いました。

2011年11月20日日曜日

嵐の街

ワイパーがフロントガラスに吹き付ける雨を、端へ端へと押しやります。
今日の天気は嵐です。
左右に振れる棒が通過した瞬間、前方の風景を確認することができます。
それを目で追っていたら、少し気分が悪くなりました。

車から降り、傘を両手でしっかり握って、街路樹が大きく揺れる街を歩きます。
水たまりに入らぬよう、傘が裏返ってしまわぬよう、荷物が濡れぬよう。
いくつかのことに注意をはらっても、実現できる事項はそんなに多くはなく、僕が雨から守れたものは傘ぐらいのものでした。

建物に入る前に小さなタオルで服やバッグを拭います。
グレーのジャケットについた雨粒の形が消えることはありません。
時間だけしか解決してくれないのです。

2011年11月15日火曜日

「遠近」

午前4時。長い11月の夜。東京のはずれ。
アトリエにはテレピンと珈琲の匂いが混ざり合い、漂います。

くたびれた商店街、住宅街。
何度か引っ越し、何カ所かの場所に習慣的に通いました。

本棚に目をやると、背表紙に記された画家の名前が見えます。
本を開けば、彼らの風景があるでしょう。

ベランダに出ると、其処には冷たい空気と白く小さな月が一つ浮かんでいます。
アトリエを覗くと、其処にも月が一つ。

絵にはそれぞれの時間、場所があります。
次第に絵は輪郭を失い、窓外に溶けました。

おちこち。


個展 「遠近」

会期 11月18日〜26日(日曜休廊)
時間 11時から18時30分
会場  NICHE GALLERY
中央区銀座3−3−12

http://nichegallery.jp/exhibition.html

2011年10月26日水曜日


午前6時。
ベッドに入るのも面倒で、ソファーで身体を丸めて寝ていたのですが、なんだか寒くて目が覚めました。

カーテンを閉めわすれた窓からの日差しで、部屋はぼんやりとした橙色になっています。

そばにカメラがあったので、撮りました。それだけです。

2011年10月25日火曜日

テーブルに散らばった紙の上に、アイスコーヒーの入ったグラスを置きました。
しばらくそのままにしておくと、グラスについた水滴で、紙に皺ができます。

考え事をしながら、その紙に線を引いていると、皺が顔のように見えてきました。

ドローイングの中に現れる顔が、自分のものか、他人のものか、また何処から来たのかがわからない。というアンリ・ミショーの言葉を、以前どこかで読んだ気がします。
確かなことは覚えていません。ただぼんやりと思い出したのです。

今日は晴れて暖かい日です。空の高いところに、雲が長い点線のようにのびていました。

2011年10月21日金曜日

浅草寺の境内を歩いていたら、後ろからオレンジ色の蝶が僕を追い越していきました。
最近はずいぶん気温が下がっています。もうすぐ11月ですから当然なのかもしれません。
蝶はしばらく前方に進んでから、強い横風にあおられ、どこかに消えてしまいました。

2011年10月9日日曜日

言葉と絵のモチーフ

僕のモチーフには、言葉になりたがっているものと、絵になりたがっているものとがあって、制作している時にはやはり絵になりたがっている対象が多く思い浮かびます。

絵になりたがっていることを言葉にするとまとまらないし、言葉になりたがっていることを絵にするとつまらないものになる傾向があるようです。

2011年10月8日土曜日

近況報告

僕があくびをすると、それに合わせて、外にいる猫が鳴きました。
白黒の太った猫に違いありません。
いつだって急に現れ、僕を驚かせるのです。

最近は11月の展示の準備をしています。

2011年9月26日月曜日

休憩

気がつくと、外ではシトシトと雨が降っています。
静かで冷たい雨です。
ずいぶんと秋らしい気候になってきました。
空は分厚い雲に覆われています。

作業が一段落したので、気分転換に台所で熱い珈琲をいれました。
マグカップを手のひらで包むと、気持ちが落ち着きます。
湯気の下にある黒い水面に、素早く波紋が広がりました。

2011年9月21日水曜日

メモ

台風、サイレン、植木鉢が割れた音。雨は止んでも、風が強い。

2011年9月8日木曜日

蝉とパン

早朝、絵を描いていたら腹が減ったので、コンビニエンスストアにパンを買いに行きました。
風が冷たくて、薄いカーディガンでも羽織ってくればよかったと思いながら、ゆっくりと自転車をこぎます。

メロンパンと牛乳を買って、足早に外に出ると、カシャッと音がしました。蝉を踏んでしまったのです。
悲しくはなかったけれど、足の裏に熱を感じます。

家についてから、珈琲に湯煎した牛乳を混ぜて、飲みました。

2011年9月3日土曜日

カラスが鳴いて、風が吹く

昨夜から強い風が吹いています。台風が近づいているそうです。
これから雨が降るかも知れません。

窓の外では秋の虫が鳴いています。きっと風の猛々しさに怯えて、大きな葉の下や石の隙間に身を潜めていることでしょう。

通りから、靴音とくしゃみの音が聞こえました。
気がつくと外はぼんやり明るくなっています。
一日の始まりです。
ここのところ、朝まで作業が終わらない日々が続いています。

仕事を切り上げて、筆を洗うために流しに向うと、カラスが3度鳴き、風が閉め切った雨戸を強く揺らしました。

2011年9月1日木曜日

ART GWANGJU

8月31日から9月4日まで韓国光州でのART GWANGJU 11というアートフェアに出品しています。

宜しくお願い致します。

2011年8月27日土曜日

みなとみらい展

8月30日から横浜で開催されるグループ展に参加します。
S100号を含む新作を展示しますので、ご高覧ください。

「YOKOHAMA2011 みなとみらい展」

〈出品作家〉
河内成幸 両岡健太 仙石裕美 土屋雅敬 田村達也 樺山祐和  仙洞田文彦 今井麗 西村有 細川文未昌 門田光雅 大川心平  上田暁子 坂口竜太 川合朋郎 八木なぎさ 三村伸絵 出射茂  藤田邦統 西村冨彌

会期 8月30日〜9月4日
開館時間 10:00〜18:00
(初日は12時開館、最終日は16時閉館)
会場 横浜市教育文化センター 横浜市民ギャラリー

2011年8月26日金曜日

追跡する百人

去年から参加させていただいているグループ展です。
多くの作家が出品しています。
僕は小品1点ですが、お近くにいらした際には是非お越し下さい。

「追跡する百人」展

会期 8月27日〜9月1日
開廊時間 11:00〜18:30
中央区銀座3−3−12 銀座ビルディング3F
NICHE GALLERY

2011年8月22日月曜日

遠い夏

途切れ途切れに雨が降って、少し肌寒くなりました。
去年の夏は残暑が長引いたように記憶しています。

先日、今年最後の花火が近くの川で打ち上げられました。
閉め切った窓から聞こえてくる音はとても遠くから届いているように感じます。

季節は一方通行で、この夏が終わると、次の夏が来るまでに、多くの時間が必要です。

2011年8月15日月曜日

本について

先日、クローゼットの中を整理しようと思い立ち、多くのスペースを占めている読み終わった小説を、古本屋に引き取ってもらいました。

読まれた文字のすべてが僕の中に残っているわけではありませんが、4つの段ボールに詰められ、業者に運ばれていく本を見ていると、ちょっとした喪失感と身軽さを感じたのです。

最近は過去に一度読んだ本を読み返すことが増えたように思います。
今回引き取ってもらった小説の中で、もう一度読みたくなるものがあるかも知れません。
そうしたら、また買おうと思います。
本は読むことと同様に、選び、買うことにも意味があると思うのです。

2011年8月14日日曜日

近況報告

朝になりました。紫。
昼は積乱雲、驟雨。
夜は満月。時折、雲の裏。

最近は言葉がうまくつながらなくて、困っています。

2011年8月2日火曜日

運動について

真夜中、ポストに郵便を出しにいくと、閉店したドッラグストアの駐車場で、バトミントンをする男女がいました。
羽を打つたびに短い息がもれます。
言葉を交わすこともなく、坦々と繰り返されるリズムには、苛立ちが込められているように感じました。
打つたびに感情が湯気のようにあがっていき、上空で薄まります。

最近では、朝まで作業が続くことが多いです。
公園に出かけて、近所の子どもたちと一緒にラジオ体操をしてから眠りにつきます。

2011年7月27日水曜日

花火

大きな音に誘われて、自転車で花火を見にいきました。
子どもの頃から馴染みのある、小さな規模の花火大会です。

大通りから小道に入ると、不意に視界のひらける場所がありました。
床屋の夫婦が、店の椅子を外に出し、花火を眺めています。

邪魔をしないように、後ろの方に居させてもらうことにしました。

2011年7月25日月曜日

夏祭り

外から太鼓の音が聞こえてきます。
この辺りでは、今夏、最初の祭りです。

風呂上がりにふらっと出かけて、櫓を支点とした円運動をしばらく見ました。

2011年7月20日水曜日

紙飛行機

テーブルの上には、実りのないメモ書きが散らばっています。

手のひらで丸めて、ゴミ箱に放るのですが、なぜかうまく入りません。
それならばと、今度は紙飛行機にして宙に放つことにしました。
あるものは天井を旋回し、あるものは一直線に、それぞれの航路でゴミ箱にむかっていきます。

ようやく一機の紙飛行機がゴミ箱に入りました。

床には目的を果たせなかった白い機体が点在しています。

2011年7月14日木曜日

夏の日

よく晴れた日に遠くの川へ泳ぎに行ってきました。
たくさんの魚が棲む川です。
網でハゼを捕まえようと、水中に潜って追っていると、オイカワが次々と顔の側を通り過ぎていきました。
彼らの泳ぎは自信に満ちていて、身体のむきを変えるたびに刃物のように鱗が輝きます。
その美しい動きに見入っていたら、追っていたハゼはすでにどこかの岩間に隠れてしまいました。

川からあがると、心地よい疲労感が身体を包みます。
強い日差しに焼かれ、肌には水着のあとがくっきりとつきました。

小さな雲が流れ、少しの間、太陽の光を遮ります。
しばし息をつき、また暑い日が続きます。

2011年7月4日月曜日

THE 10 MASTERS

7月6日〜7月19日にソウルのGallery GODOでオープン10周年記念のグループ展があります。

「THE 10 MASTERS」

〈出展作家〉
KIM,HONG JOO  SUH,YONG SUN  LEE,JAE HYO
LEE,HWAN KWON  YOON,MYUNG SIK  HAM,MYUNG SU
ANGAR AKIBA  GUENTER GRASS  JOHANNES HUEPPI
SHINPEI OKAWA

よろしくお願い致します。

2011年7月1日金曜日

停電と鳴かない蝉

激しい雨の中、どこかに雷が落ちて、停電しました。
静まりかえった廊下、雨音も雷鳴も聞こえなくなります。
聞こえなくなった気がしました。

週の初め、京都に行ってきました。
真夏のような暑さでしたが、木々に囲まれた寺院ではまだ蝉が鳴いていません。

5秒ほどたち、再び電気が点ります。
雷鳴が轟く中、シャワーで汗を流しました。
目を閉じると、遠くで蝉の声が聞こえます。

聞こえた気がしました。

2011年6月26日日曜日

夜明け前

午前3時、この頃の夜明けは早い。

さっきまで降っていた雨はもうやんでいます。
とても静かな夜です。

耳を澄ますと鼓膜を押し込む、電波のような気配を感じました。
とても大きくて、それでいて空虚な存在です。
漠然とした不安を感じ、それから逃れようとして、足を動かすと、ベッドが軋みます。
ギ、、、ギギ
意識をすればするほど、ベッドは鳴ります。

これ以上、音をたてていても仕方がないので、ひとまず眠ることを諦めて、台所に向いました。
冷蔵庫の扉を開けると、とても眩しくて、僕はまぶたを閉じます。

グラスに牛乳。
素足に廊下。
新聞配達、カラスの声。
電車が鉄橋を渡り、そろそろ夜が明けます。

2011年6月25日土曜日

窓際のモンステラ

昨日までの暑さが今日はお休みで、扇風機は湿気の多い空気をゆったりとかき混ぜています。
僕は今日も本を読んでいます。もう一ヶ月、それ以外のことはしていません。

風に揺れるモンステラ。
茎は天井に伸び、先端で大きな葉を広げます。垂れ下がる気根は暗闇の中を手探りで進むように、彷徨いながら地面を目指しています。
真逆のベクトルに引き裂かれて、中身が空っぽになった、かわいそうなモンステラ。

最近、へその少し上の辺りがモヤモヤします。

2011年6月24日金曜日

近所の魚

一年ほど前から、日本でとれる淡水魚を飼い始めました。
近所の大きな池では、タナゴ、フナ、クチボソがたくさんかかります。
地味な淡水魚ですが、流木の間をぬける素早い動きは、涼しげです。

今年は体色が鮮やかなオスのタナゴを、もう少し増やしたいと思っています。

ここのところ、暑い日が続いていますね。
アイスコーヒーばかり飲んでいます。

2011年6月20日月曜日

裸足の男

駅のホームで本を読んでいると、裸足の男が階段を下りてやってきました。
彼は何食わぬ顔で、黄色い点字ブロックの上を歩いています。
足下のほかに変わった様子はありません。

以前、電車の座席の手前に、きちんとそろえられ、置き去りにされた靴を見たことがあります。

うっかり傘を忘れるように、靴を忘れてしまう人もいるのですね。

2011年6月15日水曜日

雨宿り

午後になって目が覚めました。
昨夜は仕事のきりが悪く、就寝が遅くなってしまったのです。
今日は用事を済ませるために外出しなくてはなりません。簡単に身支度をし、電車を乗り継いで遠くの街まで出かけます。

いくつかの用事を済ませ、通りに出ると、雨粒が手の甲に当たりました。
この時期は予報になくても、さっと道を湿らすように雨が降ることがあります。
折り畳み傘を持っていたのですが、広げるのが面倒に思えて、近くの喫茶店で雨宿りをすることにしました。
扉を開けると鈴の音が高く響きます。何だか薄暗い喫茶店です。小さなライトがそれぞれの席を遠慮しがちに照らしています。

温かい珈琲を注文し、外を眺めていると、珈琲がテーブルに届く前に、外の雨はすっかりやんでしまいました。
雨上がりの通りを仕事帰りの人々が駅に向って歩いていきます。
早々に目的を失った僕は、落ち着かない気持ちでそれを飲み干し、足早に店を出ました。

2011年6月12日日曜日

時間について

秒針が時を刻む音が聞こえます。
外からでしょうか、僕の部屋には時計がありません。

気になって窓を開けると、静かに雨が降っています。
雨だれの音でした。
ただそれだけのことです。

最近は部屋で本を読んで過ごしています。
気がつくと一日が終わっているのですが、部屋に時計がないことと関係しているのでしょうか。

2011年5月30日月曜日

雨の日の過ごし方

銀座スルガ台画廊のグループ展が終了しました。お忙しい中お越しくださった皆様、誠にありがとうございました。


グループ展の会期中に、東京が梅雨入りしました。
湿度が高く、昼間でも部屋が暗いと、何だか冴えない気分になります。

窓際で本を読んでいると、近所の幼稚園からオルガンの音と子どもの声が聞こえてきました。

音にあわせて歌っている子、ケンカをして泣いている子、先生に何かを訴えかける子。
本を閉じ、耳を傾けると、一人一人を確認することができます。

彼らは雨の日の過ごし方を知っているのですね。

6月になると近所の公園で花菖蒲が咲くはずです。大きな傘を持って出かけてみようかと思っています。

2011年5月24日火曜日

Z予兆街

5月25日から6月7日まで、ソウルにあるGallery GODOで個展を開催します。

ここ数ヶ月でいろんなことがずいぶんと変化しました。
現役の美術作家として、この新しい日常に適応できる、想像力と技術力を身につけなくてはならないと考えます。
諦観して、事実は小説より奇なりというのにはまだ早いのです。

よろしくお願い致します。

2011年5月22日日曜日

Pegasus

5月23日から銀座スルガ台画廊で始まるグループ展に参加します。
4作家での研究発表展です。

よろしくお願い致します。

詳細はこちらをご覧ください。

2011年5月17日火曜日

雷鳴

遠くで雷の音が聞こえます。

隣家の屋根に雨粒がぽつぽつと落ち始めました。
だんだんと瓦の色が濃くなり、全体に艶を帯びてきます。
やがて雨粒は屋根を埋め尽くし、瓦のくぼみを流れ出しました。
雨樋から溢れた雨は、軒下に水たまりをつくるでしょう。

いつの間にかに雷は僕の家の側までやってきて、頭上で轟きました。
稲妻が暗くなった部屋を時折照らします。

低く鳴らしていた音楽は雷鳴と混ざり合いました。
階下では子どもの声が聞こえます。

僕は無性に外に出かけたくなりました。

2011年5月11日水曜日

雨、雨

昨日から冷たい雨が降っています。
今日は遠くまで出かける理由があって電車に乗りました。
車内は其処彼処が濡れています。
ぼんやりと座っていると、向かいの席から僕の足下に、空のペットボトルが転がってきました。
椅子の下に立てようと思いそれを掴むと、やはり濡れています。

隣りに座った女性が、メイクを始めました。
使っている手鏡に、時折彼女の瞳が映ります。
まだ始まったばかりですが、下車までにはきっと完成するでしょう。

2011年5月8日日曜日

お知らせ

5月7日から5月22日に、栃木県益子のヒジノワで開催されている「立夏、花の展覧会」に参加します。

最近はシャツにカーディガンを羽織っただけの格好で出かけることが多いです。
重いコートを脱ぎ捨てた開放感は気持ちを少し軽くさせます。

よろしくお願いいたします。

2011年5月6日金曜日

近況報告

最近は月末にある新作の個展とグループ展の準備をしています。

5月4日から8日まで、SOAF2011というソウルでのアートフェアに作品を出してもらっています。
http://www.gallerygodo.com/artfair/soaf.htm
(ここに載ってる作品は旧作で、フェアには出品していません)

2011年4月29日金曜日

電車の中で思ったこと

最近は電車に乗ると、エアコンを消しているため、車内の空気がよどんでいます。
僕は普段から乗り物酔いがひどいので、気分を紛らわせるために本を読むことにしました。
その中にでてくるいくつかの言葉は僕の食欲を刺激します。
片道1時間半ほど電車に乗っていたので、そのときに食べたいものをメモすることにしました。

10時55分 チーズバーガー
11時12分 メロン
11時30分 チーズの入ってないハンバーガー
11時33分 ジーマミー豆腐
12時07分 メロンソーダ
12時20分 春菊

10時55分から12時30分の間。目的地に着くまでに、6つのものを食べたくなりました。
その日、6つの中で食べられたものはジーマミー豆腐だけです。
自分の願いが6分の1叶うというのは、わりといいほうなのかもしれません。
絵の方もそれぐらいの割合で思い通りにいってくれると助かります。

電車の空調の問題は夏にむけて解決してもらいたいですね。

2011年4月23日土曜日

橋の上、踊る影

川沿いの道を歩いていると、川の向こう側に気配を感じました。
僕の進む速度で、相手も進み、まるで影のようです。

もう少し進むと橋があります。
橋の上で彼と出会うことはあるのでしょうか。

橋の上には街灯が6つ。時折後ろから、車のライトが背中を照らします。

自分の形をした無数の影が動きだし、大きくなって、僕じゃないものになりました。
気配はもう感じません。

2011年4月18日月曜日

お花

4月19日からお花をテーマとした小品展がGallery健とGREEN ART TEAMで始まります。
僕も3号の油絵を一点かけてもらっているので、よろしくお願い致します。

学生の頃から出品させていだだいており、今年で6年目です。
毎年、自分の考えを反映させたお花を描こうと思っています。

詳細はhttp://shinpei-okawa.com/exhibition.htmlをご覧ください。

2011年4月14日木曜日

小屋の消滅

土手の下には青い小屋があります。
どこか惹かれるところがあり、これまでに何度か描きました。

その小屋を僕にとって特別にしている最たる特徴は、扉がないというところです。
出入りできない小屋にどんな目的が込められているのでしょう。

この小屋の側でゴルフの練習をしている人をよく見かけました。メガネをかけた、やせ形の中年男性です。
おそらく彼はこの小屋の意味を知っています。

ある日、いつものように散歩をしていると、小屋が消えていました。
今は小さな空き地があるだけです。

彼はこの場所に次の小屋をつくるのでしょうか。

2011年4月8日金曜日

制作ノート

道具棚を探っていたら、2005.4.10〜10.13と書かれた制作ノートがでてきました。
大学にもほとんど行かずに、部屋にこもって描いていた時期です。
内容はその日見た夢と、読書感想文、絵に関する考察が書かれています。

心をひりひりさせながらめくっていくと、学部3年生のときに受けた批評会のメモがありました。

「描くことでしか思想はできない。あせらずやりなさい。」
「絵を描くことへの執着を感じる。見た人のことなど考えなくていいから、自分の入り込めることを続けなさい。」

アトリエにも来ない生徒でしたが、暖かい言葉をかけてもらっていたのだと思い出しました。

今の僕の絵をみたら、なんというのでしょう。
いいから続けなさいといってくれるでしょうか。
ありがとうございました。

2011年4月7日木曜日

昨日と今日

桜は去年と変わらぬ様子で咲いていました。

現在、5月末から予定している展示のための作品を描いています。
描く内容が決まり、中盤から詰めの仕事に入る頃に地震が起きました。

今日のように気持ちよく晴れた日は、以前にもあった気がします。
でも、同じではありません。
そこを見極めたくて、桜の下に出かけています。

2011年4月6日水曜日

明るい街

近所に、桜の季節になると賑わう、長い土手があります。
今年は夜になっても提灯が灯りませんが、それでも桜は白く輝いて見えます。
月や星は思いのほか明るくて、それだけで十分なことも多いでしょう。

でも僕は、人工的な光を好んでいることを告白しなくてはなりません。
僕は街灯の光に導かれ、安心して道を進むことができます。
月の光は平等に街を照らしますが、それでは迷ってしまいそうです。

節電が求められる社会で、むやみに電気の光を使ってはいけませんね。
これからは絵の中に街灯を灯すことが多くなりそうです。

2011年3月28日月曜日

お知らせ3

彩光舎美術研究所での個展が、無事終了しました。
記帳を見ると、懐かしい方々に多く来ていただいたようで、とてもうれしかったです。
ありがとうございました。いつかお会いできたらと思っています。

彩光舎では、高校2年生の冬に初めて来て以来、生徒として、また講師として10年間お世話になりました。
所長には研究所を出てからも、いろいろと気にかけていただき、個展を企画してくださったことを感謝しております。

計画停電が途中から予定される中でのパーティー。
そこで振る舞ってくださったちらし寿司の味。
薄暗い展覧会場。
記帳の文字からは、懐かしい顔が浮かび、声が聞こえます。

どうもありがとうございました。

2011年3月19日土曜日

お知らせ2

3月20日17時から彩光舎美術研究所で、個展の集まりを予定通りしていただけることになりました。
皆さん不安な日々を過ごしているかと思いますが、ご無理のないよう、お近くの方は是非いらしてください。
また、27日まで会場を開けてくださっているので、よろしくお願い致します。

2011年3月14日月曜日

お知らせ

3月15日から3月27日まで、彩光舎美術研究所で個展を予定していましたが、地震の影響で開催することができません。
搬入は地震の前にすませていたので、一応作品はギャラリー内に立てかけてもらう予定です。
状況を見て会期中に開催できたらいいと思っています。もしそのようになれば、ブログの方でご連絡いたします。
彩光舎で講師をしていた頃の生徒さんに案内状が届いているかもしれません。
皆さんご無事でしょうか。

これから先、どうなるかわかりませんが、次の展示にむけて作品をつくることが、未来につながると信じています。

日本のために懸命に働いている方々の勇気に感謝いたします。

大変微力ですが、節電などできることはしたいと思っております。

2011年3月10日木曜日

不可避の笑い

電車で本を読んでいると、不意におもしろい場面に遭遇して、笑い出しそうになりました。
突然笑い出し、人を驚かすのはよくないことです。

コートのポケットに左手を入れ、強く握ります。
口元はどうしても緩みますが、声を出すのだけは死守しなくてはなりません。
目を閉じ、ハンカチで口元を押さえます。

頬がふるえ、うっかり吹き出してしまっても、あせってはいけません。咳払いで対処します。

ようやく目的地につき、ホームに降り立つことができました。
駅のホームはなんと広いのでしょう。清々しい気持ちでいっぱいです。

気がつくと、笑いは去っていました。
ポケットから出した手のひらが、汗でひんやりします。

2011年3月6日日曜日

白黒猫

午後3時、黒い模様のある白猫が、道路を悠々と横切り、民家の中に消えいきました。
大きな猫です。このあたりには白黒の猫がたくさんいます。

ふと白い模様のある黒猫の存在が気になりだしました。
黒い身体に白い水玉模様があったら、可愛らしいですね。
見た記憶はないのですが、いてもおかしくない気がします。

家につくと、玄関に白黒の猫が座っていました。
先ほどの猫かはわかりませんが、少なくとも黒い模様のある白猫でした。

2011年3月4日金曜日

雲の上

ポストに手紙を出しにいきました。
星が出ています。
ここのところ天気の悪い日が続いていたので、星との再会をうれしく思いました。

鈍色の分厚い雲に、街が蓋をされていると、行き場のない気持ちになります。
雲の上にはいつでも今日のような空が広がっているはずなのに、ときにそれを信じられなくなるのです。

短い距離だったので、ポストまで全力で走りました。
気持ちのいい夜です。
胸が高鳴り、ふくらはぎが熱をはらみます。

この鼓動、この熱もいつかは消え、また走ることができるはずです。

2011年2月27日日曜日

雪まつり

近所で雪まつりをやっていました。
毎年この時期に、新潟からトラック何台分もの雪を持ってきて、かまくらや滑り台を作ります。

いくつか疑問はありますが、子どもたちが喜んでいるので、いい催しには違いありません。

2011年2月25日金曜日

春風

春一番が吹きました。
10日ほど前に雪が降ったのが、嘘のような暖かさです。

水槽の水草や流木に隠れていた魚たちは、陽気に誘われ、活発に動きだします。
一冬越えて、少し大きくなったようです。

絵は少し休憩し、窓を開けて本を読みました。
寒くはありません。ただ頬を滑らかな風が撫でていきます。

僕にとっても春の訪れは好ましいことなのです。

2011年2月20日日曜日

浮かぶ音、絵

電車から、川辺でトランペットを吹く青年が見えました。

彼には他に吹く場所がないのでしょう。
誰に聴かせるでもない音は、宙に浮かび、いずれ消えてしまいます。

昨日、以前通っていた古い喫茶店が解体されました。
窓ガラスや木材と一緒にキャンバスが放置されています。

絵は裏返しになっていましたが、おそらくソファーの後ろに掛けられていた風景画でしょう。
僕は悲しくて、拾って帰りたかったのですが、すぐに思い直しました。

聞こえるはずのないトランペットの音が響きます。
放置された絵は川の上でトランペットの音と出会うのですね。

2011年2月17日木曜日

正しい手の洗い方

風邪が流行っているようです。
区が管理している施設で手を洗おうとしたら、正しい手の洗い方のプリントが掲示されていました。
手の洗い方にまで正しさがあるのですね。

よく読んでみると、時間をはかるため、ドレミの歌を歌いながらやりましょうと書いています。
早速実践してみようと指先から洗い始めました。

ドはドーナツ、レはレモン、ミは何でしょう。
ミでつまずいてしまい、そこから進めません。
手はきれいになったのですが、心にもやもやしたものが宿りました。

正しい行いは時に困難です。

2011年2月15日火曜日

キリンと雪

雨音が聞こえなくなったと思ったら、外は雪に変わっていました。

今日の雪には迷いがありません。
時が経つにつれ、街から角が消えていきます。
明るい夜です。

外からどすんと大きな音が聞こえました。
屋根から雪が落ちたのですね。

大きな動物が倒れたような音です。
キリンや象の上に雪が積もっていきます。

彼らにとって日本は寒すぎるでしょう。
身体を寄せ合い眠っています。

2011年2月11日金曜日

雪景色


寒い日が続いています。
この街にも朝から雪が降り始め、午後には屋根にうっすらと積もり始めました。

今日は一日中、部屋で作業ができます。
はらはらと落ちる雪を眺めていると、このまま街が真っ白くなればいいのにと思うのです。

ますます雪が積もります。
ふと、外で働く人が思い浮かびました。
暖かい部屋で雪景色を望むことは身勝手なことなのかも知れません。

2011年2月8日火曜日

午前4時

夜が深くなればなるほど、朝に近づいています。
午前4時、風が戸を揺らす音しか聞こえません。
電気を消した部屋では、パソコンの画面がやけに眩しく感じます。

もう少しすると、カーテンの隙間が薄い青になり、僕も眠ることができるでしょう。

2011年2月2日水曜日

蟻とチョコレート

僕は夜中にチョコレートをよく食べます。

夏になったら蟻を飼おうと思っているのですが、蟻はチョコレートを食べないそうです。
水に溶いたハチミツや死んでしまった蚊が好きだと聞きました。
立派な巣をつくるでしょうか。

2011年2月1日火曜日

飛べない鳥

ホームへの階段を上っていると、向かい側からたくさんの人が勢いよく降りてきました。
電車は行ってしまったのでしょう。僕は階段の端に寄り、彼らが通り過ぎるのを待ちました。

ホームにあがると、太った鳩が、誰も座らないベンチの側で何かをつついています。
これ以上食べると飛べなくなりそうです。

この街にはたくさんの猫がいるし、たまには犬だって小屋から抜け出すかも知れません。
飛べない鳥には居場所がないのです。

2011年1月30日日曜日

くしゃみ

昼下がりの列車に外光が差し込み、車内を漂う埃が浮かび上がりました。
車窓から見える景色はゆっくりと移り変わっていきます。

目的地が近づいているのですが、席から動きたくありません。
このまま列車に揺られていようかと思案していると、不意にくしゃみが二度でました。

近くに座っていた、腰に大きな尻尾をつけた女性が、迷惑そうに席を離れます。

僕は身体を動かす合図を受け取り、目的地で下車することにしました。

2011年1月23日日曜日

拾う人


川沿いの道に、落ちている葉っぱやコンクリートのかけらを拾う人がいました。
興味の向くままに道を横断し、車は彼の動きに警戒しながら、隣りを通り過ぎていきます。

彼のことが気になりやや後方から様子をうかがっていると、突然後ろを振り向き、僕に微笑みかけました。
葉っぱと同じように何かを拾われたのです。

帰り道、拾ったものをしまう箱のことを考えました。
箱に入れたっきり、見返すことはないのかも知れません。彼は多くのものを拾いすぎています。

靴音がいつもより高く響きました。

2011年1月22日土曜日

隠し球(下)

「美術の窓」2月号「山下裕二の今月の隠し球」で取りあげてもらいました。
先月号からの続きで、「僕の暮らす街」で育まれた心象風景(下)という文を書いてもらっています。是非お手に取ってみて下さい。

生活の友社 「美術の窓」二月号 1月20日発売

ホームページのworksに2010年の作品を更新しました。
重ねてよろしくお願い致します。

2011年1月20日木曜日

黒い煙

朝方、近所を散歩していると、知らないおじいさんに声をかけられました。
「この辺りで黒い煙があがっていたのだけど、知ってるかい?」

僕にはまるで心当たりがなかったのですが、10分程、彼と歩くことになりました。
幼少の頃から、知らない人には付いていかないようにと教育を受けてきたのですが、黒い煙の誘惑に負けて話し込んでしまったのです。

大きな空き地沿いの道路で、燃えるようなものは何も見当たりません。

彼は天気や定年後の趣味の話をしてくれました。切り絵をやっているそうです。
僕も油絵を描いてるというと、若いのにいい趣味だねと褒めてくれました。

なかなか楽しかったのですが、家が近づいてきたので、黒い煙の話に戻そうとすると、「ではまたどこかで」と言い残し、道沿いの交番の中に入っていってしまいました。

黒い煙の向こうに、おじいさんの笑顔が見えます。
再び会うことは、おそらくないでしょう。
次第に彼と煙が混ざり合い、ついには思い出せなくなりました。

2011年1月19日水曜日

夜の看板

工場跡地に看板が立ちました。
夜になると、どこか神聖な雰囲気です。

この空き地にはとても相性のいい看板だと思いますが、近いうちに大学が建設され、この看板は撤去されるそうです。

2011年1月15日土曜日

あれこれその絵

5つの電車を乗り継ぎ、大きな神社のある街まで行きました。
境内にある美術館が目的地です。

建物自体は厳格な形なのですが、中心の広場にイサムノグチの「こけし」という可愛らしい彫刻が設置されており、それがそのままこの美術館の印象になっています。

展覧会は美術における人間の表現を、大正、昭和の洋画を中心に追っていくものでした。
この年代の作品には汗ばむような、独特の湿度があります。

松本竣介の「立てる像」を見ていたら、知らぬ間に10人ほどの子どもたちに囲まれていました。
口々に「これだよ、これ!」と話しています。
教科書に載っていたのでしょうか。

心の中で「そうだよ、これなんだよ」と彼らに話しかけました。
僕の使った教科書にも、この絵が載っていたことを覚えています。

しばらくして、散り散りになった子どもたちは、ガラスの扉に吸い込まれるように姿を消しました。

2011年1月12日水曜日

名のある雲

友人が、慌てた口調でいいました。
「外に君の絵に合いそうな雲があるよ。」

急いでベランダに出てみると、おかしな形の雲が浮かんでいます。

僕の絵を理解してくれていたことがうれしくて、忘れられない雲になりました。
その雲には、彼の名前を付けようと思っています。

2011年1月10日月曜日

飴色の夜

飴色のブーツを買いました。
新しい靴は自分を普段とは違った場所に運んでくれます。

滅多に電車の通らない踏切で足止めされました。
道には黒い手袋が落ちています。
短い貨物列車は何を積んでいるのでしょう。

空には下弦の月が浮かび、頬や耳は痛いほど冷たいのに、ポケットにいれた掌は汗ばんでいます。
民家に目をやると、猫が目を光らせていました。

2011年1月3日月曜日

思い出のバルテュス

バルテュスは自分の制作を、未習得の言語で小説を書いているようなもので、絶望的だと言っていたそうです。

10年前に彼が亡くなって、その年に発売された画集を見ています。
僕が最初に買った画集でした。

デフォルメされた空間と何度も強く塗り込めた絵肌を見て、これが油絵なのだと思ったものです。
バルテュスを介してピエロ・デラ・フランチェスカやプッサンに興味をもちました。

彼の作品の中には、日本の古い絵画をテーマにしたシリーズがあります。
他の作品に見られる、身に付いた密度の高い立体表現は見られず、平坦で奥行きのない表現です。習作的な意味合いが強く見えます。
バルテュスは初期ルネサンス絵画に通じる、日本の絵画の平面性に特に着目しているようです。

僕はこの絵を見ると、心がひりひりします。

「未習得の言語で小説を書いているようなものだ。」
その言葉が切実に響いてくるのです。

新しい年になりました。

僕にとっても制作中はわからないことばかりです。
バルテュスは絶望的だといいましたが、一方でやりがいも感じていたのではないでしょうか。

問題を打開するには、もっと工夫をして描かなくてはなりませんね。
本年も宜しくお願い致します。