2015年9月30日水曜日

青空の時間

交差点で信号が青になるのを待っていました。
ここの信号は変わるのに時間がかかります。
高い空には細かな雲が散らばっていました。
昼下がりの青空は、このままずっと変わらない時を思わせます。

一本の映画を借りました。

レンタルショップを出ると、散らばった雲はレモン色に照らされています。
シャツ一枚では肌寒く、カーディガンを羽織ってくるべきでした。

2015年9月28日月曜日

花の香り

最近では午後5時にもなると日が陰りはじめます。
夕方、薄暗くなった街を歩いていると、古い喫茶店の入り口に、鮮やかなオレンジ色の花が咲いているのが見えました。直径10㎝ほどの、夏の落とし物のような花です。暑さの記憶がよみがえります。今年の夏は7月の初めに突如やってきて、8月の終わりの雨と共に去っていきました。

香りに誘われる羽虫のように近寄ってみると、それが造花であることに気がつきました。
夏は古い喫茶店に落とし物をしておらず、気がついた途端に花は香りを失い、ひどく寂しいもののように見えるのでした。

街には金木犀の強い香りが漂っています。
今夜は雨の予感を漂わせた曇り空ですが、十五夜の月が雲間から見えました。

2015年9月23日水曜日

アーチ橋

深夜2時の道には人影もなく、時折タクシーや大型トラックが、自転車に乗った僕を追い抜いていきました。
家までの道は基本的には平坦なのですが、一本の川があるため、長いアーチ橋を渡らなくてはなりません。
立ちこぎで頂点まで進むと、向かいから若い女性が二人やってきました。
彼女たちは賑やかな声で笑い合い、どこかに向っている様子です。
連休の中日、おそらくどちらかの家に行き、朝まで語らうのでしょう。

学生時代に繰り返した懐かしい日々を思い出しました。
朝を待つ部屋。
ビールの空き缶と食べ残したスナック菓子。籠った空気。
眠ってしまった友人にタオルケットを掛け、窓を開けて煙草のにおいを逃がします。
しばらくすると東の空が白みはじめ、カラスが鳴きました。直に電車も動き出すでしょう。
昨晩の盛り上がった気分は泡のように弾け、もはや本当にそんなものが存在したのかも怪しく思えます。

川を渡りきったところにはコンビニエンスストアがあります。
あまりにも眩しい蛍光灯の光に、僕の心は照らされ、身体が宙に浮いてしまったようです。ペダルを漕ぐ脚を動かしている感覚がなくなりました。
窓際には、雑誌を立ち読みしている男性が見えます。

2015年9月18日金曜日

青年とカラス

今日も雨が降りました。
冷たい雨で、駅までの道を、いつもより長く感じさせました。
風のない日の空は、一面グレーに塗られ、雨雲の存在すら消してしまいます。
カラスが一羽、高い鳴き声をあげて、マンションの上を通り過ぎていきました。
マンションのベランダには煙草をふかしている青年の姿が見えます。
あの青年にもカラスが見えたのかが、何故だかとても気になりました。

2015年9月15日火曜日

風を切る

激しい雨と、空の高い晴れの日が繰り返されるたびに、秋が深まっていきます。
綿のカーディガンを羽織り、昼間のアスファルトの道を、自転車で進みました。

よく覚えてはいませんが、昨年も同じように季節が巡っていたのでしょう。
10年前も20年前もきっと同じようであったはずです。

心地よかったはずの風を、少し肌寒く感じました。

2015年9月14日月曜日

夕刻の色

日曜日の夕方、ソファーに横たわり本を読んでいると、部屋中が暖かい光に包まれていることに気がつきました。
窓を開けると、そこには古いモノクロ写真のような世界が広がっています。
見慣れたはずの向かいの家や電信柱を、手が届かないもののように感じ、僕は世界との接点を失った気がして、途方に暮れました。

2015年9月7日月曜日

「あ」とか「うん」

部屋で一人、何かの確認のように言葉を発することがあります。
言葉自体に意味はなく、ただ「あ」とか「うん」とかそのようなことです。

どんなことにも意味があると考え、自分を奮い立たせることもありますが、本当にそんなことになったら、きっと生活することが嫌になってしまいます。