2015年1月16日金曜日

ベッドの中

ぼやけた世界。僕の目には、あるはずの美しい世界が未だに見えません。

朝の光がカーテンを通過して、部屋を柔らかく満たしています。天井にはカラスのような光の欠片が、いくつか散らばっていました。

僕はベッドの中で目を開けています。

近所の小学校からトランペットの音が聞こえてきました。
子どもの頃の記憶が次々に思い浮かび、僕は顔まで毛布も持ち上げます。

音楽室の穴の空いた壁。壇上で一人歌った外国の歌。先生の黒いピアノ。
終業のチャイムが鳴り、薄暗い廊下を歩きました。

放課後の校庭は、パン工場からの甘い匂いが漂います。
曇った空を見上げても、遠くには近所のマンションしか見えません。
不意に強い風が吹きました。僕はそれに怯え、走って家に帰ります。


ある日、街を廻るどぶ川にコンクリートの蓋がつけられました。
近所のおばさんが、この川に落ちて死んだ子どもの話しを聞かせてくれました。
本当の話かどうかはわかりません。いずれにしてもずっと昔の話です。

僕はよくそこに葉っぱを投げ込んでいました。
それらはしばらく浮かんだ後、ゆっくり沈みます。
へどろで底の見えないどぶ川は、どこか知らないところと繋がっている気がしました。

白く粉っぽい色をした蓋は、僕の街には馴染んでいないように感じましたが、風化するにしたがって、他のものと変わらない様子となるでしょう。


僕はベッドからは出ません。
枕元にある本を開きました。そこには昨夜の続きの物語があります。

僕はベッドからは出ません。
そして目を閉じました。そこには強い風に怯える大人がいます。