2013年6月28日金曜日

幽霊

深夜の最終電車を見送り、かつて通っていた大学のある街で、朝を待つことにしました。
駅前のハンバーガーショップに入り、次回作のアイデアを出すためにスケッチブックを開いたのですが、あまりいい考えが浮かびません。
仕方なく僕は、窓外にみえる風景を描くことにしました。
タクシーのロータリー。行き交う人、車。電車は止まっていても、街は動き続けています。
街灯や店のネオンで通りは明るいのですが、人の顔はよく見えていないことに気がつきました。
顔を失った人々。
その街で始発電車を待つ自分自身にも顔がないことは明白です。

時折、理由もなく朝まで家に帰らないことがあります。
薄明の空の下、僕は生きていることにとても感動していました。

2013年6月20日木曜日

新しい街

先月、新しい街を見つけました。
そこはしっとりとした膜に包まれていて、僕はとても眠くなってしまいます。    

御茶ノ水。古い画集につぶれた蟻が挟まっている。水曜日。
気怠い空気、曇り空。木曜の朝に鳩とぶつかる。秋葉原。
新しい絵を描き始めた。金曜日。
土曜日の表参道。深夜に悲しい映画を観た。
夕刻。人影のない日曜の大通り。岩本町。
逃げ出した文鳥。アメリカンドック。月曜日。恵比寿。
火曜日の夜。荷物を送る。日比谷。

今日は雨が降っています。明日もきっと降るでしょう。

2013年6月12日水曜日

蝶と泥

日比谷駅の地下通路に、黒い羽を持つ蝶が落ちていました。
微かに動いているように見えたので、立ち止まり、しばらく眺めていたのですが、それが生きているからなのか、風に揺らめいているだけなのかを、判ずることはできませんでした。
再び歩き出し地上に出ると、空は分厚い雲に覆われています。入梅以降、街は彩度を落とし、鮮やかな夏に向けて色を蓄えているのです。

夜になってから、雨の降る公園を走りました。雨と汗で濡れた身体は川底のぬるい泥のようになります。
土の匂いを感じながら大地と呼吸を合わせました。