2013年12月1日日曜日

大川心平 個展 -拾った日記の続きを書く-


『拾った日記の続きを書く』


うらぶれたシャッター街、人の住まない古民家、場末の薄汚れた壁。
気がつくとそこは空き地になり、直に新しい建物が現れます。そしてそれらとて、いつかは打ち捨てられる運命にあるのです。
この繰り返しはそこに暮らす人々にも当てはまり、街を描くことは人の一生を描くことと同義です。
街は多くの人々を古から抱えてきました。その一部である私は他の人が繋いだ日々の続きを生きています。
住み慣れた住宅街を歩いていると、見知らぬ空き地と遭遇することがあります。そこにもともと何があったのかを思い出そうとすると、記憶の中の風景がぼやけ、それまでよく知っていると思っていた街の肖像が不確かなものだと気づかされます。
空き地は不在を現出させるものでもあるのです。
このように現れた不在は、私の絵に存在を要求します。失われた街の記憶を補完するように個人的な体験、空想、情報を加え、落ちていた他人の日記、不完全な街の記憶に一ページを書き加えるのです。
そのため、私の作品には固定した物語はありません。
この絵は街であり、私は街の一部にすぎないのです。


大川心平 個展

2013年12月10日(火)〜20日(金)
11時〜18時30分
※12月15日(日)は休廊致します。

NICHE GALLERY
東京都中央区銀座3−3−12
銀座ビルディング3F
03−5250−1006

横幅9メートルをこえる油絵を中心とし、新作13点を発表します。
是非ご高覧いただけますよう、よろしくお願いいたします。

2013年11月6日水曜日

The BRAIN


即興演劇集団Freecruzによる公演のフライヤーの絵を描かせていただきました。
演者と観客が一体となる台本がない演劇です。
それぞれが咄嗟に選択したものが、一つのストーリーとなる様は、人の営みそのものだと感じます。

即興演劇集団Freecruz
第38回定期公演 「The BRAIN」

★日時:
1月10日 19:00
1月11日 14:00/18:00
1月12日 12:00/16:00
※受付は開演の1時間前、開場は開演の30分前

★会場:青山円形劇場
渋谷区神宮前5-53-1 こどもの城 3F
Tel:03-3797-5678 
★料金:前売券 ¥4500 当日券 ¥5000 全席自由
チケット発売日:10月2日 11:00

よろしくお願いいたします。

2013年10月3日木曜日



雨上がりの街に虹が架かりました。

美しい風景は僕を感動させるけれど、制作においては、このような美しさに寄りかかってはいけないと強く思います。
虹を見ながら画家という仕事を再確認しました。

2013年10月1日火曜日

ピアノと風の声

鴇色に染まった雲が棚引く空の下、住宅街を歩くと、長袖のシャツが冷たい風を通し、なにか心もとない気持ちになりました。

夕方の民家からはピアノの音が聞こえます。
辿々しいリズムは幼い子どもの姿を想起させ、僕は橙色の光があふれる窓に視線をおくりました。

風に吹かれて枯れ葉が舞います。
この街に代わりのない枯れ葉はないのかもしれません。
元の場所にはまた違った枯れ葉が落ちています。

何かを失っても、いずれ他のものがそれを埋めていきます。そこから去ったものも新しい場所を見つけるのでしょう。
移り変わる季節に取り残されることはありません。
時の流れは留まることを許さず、風に吹かれて転がる枯れ葉のように、その運命を受け入れるのです。

気がつくと、ピアノの音は風の声に変わっています。
風はこんばんはとさようならを同時に言いました。

2013年9月25日水曜日

小さな死

風の強い日に、人身事故で電車が止まりました。
ホームに立つ若い女性が、迷惑そうな顔で、携帯電話の向こうにいる相手に、死ぬのは勝手だけど、他人に迷惑をかけないでほしいと言いました。
一つの命が産声をあげ、ある期間を生きたあと、自ら死んだことで蔑まれました。

再び動き出した窮屈な車内で、自分の内に眠っている弱さや痛みを思い起こしました。

2013年9月6日金曜日

やがて去る夏の日の神様

ラジオから流れる懐かしい音楽を聴きながら、木漏れ日に満たされた公園を走りました。
緑色の諧調をもった木の葉の模様を足の裏に感じ、残り少ない夏の日を記憶するようにペースを上げます。

帰り道、熱をもった身体と汗を沈めるために、空き地の前にある、日陰に隠れた自動販売機で何か飲み物を買うことにしました。
ポケットから小銭を取り出し、コカコーラのボタンを押すと、冷たさを予感させる雑な落下音がします。
コーラを取り出そうとして身を屈めると、地面に十円玉が落ちていることに気がつきました。

コンクリートのブロックでできた低い段差に腰をかけ、空に浮かぶ大きな雲を眺めていると、左右から飛行機がやってきて、空中で交差しました。
それぞれの目的地に向かう機体は、真っ直ぐ進んでいるように見えます。

コーラを飲み干したとき、もし夏の日の神様がいるのであれば、ここに違いないと思いたち、拾った10円玉を夏草の生い茂った空き地に放り投げました。

2013年8月12日月曜日

『クラスルーム』


推理小説家、折原一さんの『クラスルーム』という作品が、8月9日に講談社文庫から出版されました。去年10月に発売された『タイムカプセル』の姉妹編です。今回も装画を担当させていただきました。

夏の夜、廃校が決まった中学校で開かれるクラス会。
ノスタルジー、恐怖、謎、謎、謎…
叙述トリックの名手、折原一さんのつくり出す世界を、是非楽しんでください!

『タイムカプセル』と同じ中学校が舞台となっており、合わせて読んでいただくことで様々な発見がある仕掛けになっています。
表紙も『タイムカプセル』と呼応するものになっていますので、並べて観ていただけると幸いです。

小説の装画は憧れていた仕事だったので、『クラスルーム』や『タイムカプセル』が書店に並んでいるのを見ると、感謝の気持ちが込み上げてきます。
折原さん、講談社の野村様、このような機会をいただき、ありがとうございました!

講談社文庫 『クラスルーム』 折原一

講談社文庫 『タイムカプセル』 折原一

よろしくお願いいたします!

2013年7月27日土曜日

花の命

朝日が薄暗い部屋に差し込み、テーブルを飾る一輪のバラを照らしました。
ピンクの花弁は、昨夜のそれよりもほころび、やがて枯れて落ちる運命を示唆しています。
寝ぼけた目がそれを捉えたとき、人の命も花と同じであるならば、一瞬の美しさを謳歌し、それをキャンバスに焼き付けたいと思いました。
僕は過去の画家がそのようにして残した作品を見て、自らも絵を描いているので、それを未来に繋げる役割を担っているのです。

2013年7月22日月曜日

ART OSAKA 2013

大阪で開催されるアートフェアに、Gallery Godo(Seoul / Korea)のブースから出展させていただきました。

ART OSAKA 2013
7月19日〜21日
HOTEL GRANVIA OSAKA
Floor 26  Room 6315

2013年6月28日金曜日

幽霊

深夜の最終電車を見送り、かつて通っていた大学のある街で、朝を待つことにしました。
駅前のハンバーガーショップに入り、次回作のアイデアを出すためにスケッチブックを開いたのですが、あまりいい考えが浮かびません。
仕方なく僕は、窓外にみえる風景を描くことにしました。
タクシーのロータリー。行き交う人、車。電車は止まっていても、街は動き続けています。
街灯や店のネオンで通りは明るいのですが、人の顔はよく見えていないことに気がつきました。
顔を失った人々。
その街で始発電車を待つ自分自身にも顔がないことは明白です。

時折、理由もなく朝まで家に帰らないことがあります。
薄明の空の下、僕は生きていることにとても感動していました。

2013年6月20日木曜日

新しい街

先月、新しい街を見つけました。
そこはしっとりとした膜に包まれていて、僕はとても眠くなってしまいます。    

御茶ノ水。古い画集につぶれた蟻が挟まっている。水曜日。
気怠い空気、曇り空。木曜の朝に鳩とぶつかる。秋葉原。
新しい絵を描き始めた。金曜日。
土曜日の表参道。深夜に悲しい映画を観た。
夕刻。人影のない日曜の大通り。岩本町。
逃げ出した文鳥。アメリカンドック。月曜日。恵比寿。
火曜日の夜。荷物を送る。日比谷。

今日は雨が降っています。明日もきっと降るでしょう。

2013年6月12日水曜日

蝶と泥

日比谷駅の地下通路に、黒い羽を持つ蝶が落ちていました。
微かに動いているように見えたので、立ち止まり、しばらく眺めていたのですが、それが生きているからなのか、風に揺らめいているだけなのかを、判ずることはできませんでした。
再び歩き出し地上に出ると、空は分厚い雲に覆われています。入梅以降、街は彩度を落とし、鮮やかな夏に向けて色を蓄えているのです。

夜になってから、雨の降る公園を走りました。雨と汗で濡れた身体は川底のぬるい泥のようになります。
土の匂いを感じながら大地と呼吸を合わせました。

2013年5月26日日曜日

美じょん新報 第164号

5月20日発行の「美じょん新報」の中で4月に六本木で開催していた個展『Drawing』の批評を、瀧梯三先生がしてくださりました。
継続した視点から作品を見ていただけていることがとても励みになります。
よろしくお願いいたします。

ビジョン企画出版社 「美じょん新報」
第164号 5月20日発行

2013年5月10日金曜日

自分について自分が知っていること

絵を描き始めた頃、ある画家に「君は自分のことを知りすぎている」と指摘されたことがあります。
僕はそれまでぼんやりとして生きてきたという思いがあったし、今でもそれは変わらないのですが、その言葉は新しい作品や展示と向き合うときには必ず浮かび上がってきます。

自分について自分が知っていること。
それは時に足枷となります。それでいて自分の内面や環境にテーマを求めていること自体が、屈折した思いを表しているのかも知れません。

最近は冬に予定している個展に向けての準備に取りかかっています。
今後の活動を考える上で、重要な展示です。

自分について自分が知っていることを拡張させ、物語の語り部としての責任を果たすために、できる限りのことをするつもりです。

2013年4月19日金曜日

春の雨

朝方、自転車に乗って駅の方へ向かっていると、急に降り出した弱い雨にグレーのカーディガンがしっとりと濡れました。
昨日はとても暖かく、長袖のシャツ一枚で過ごしていたのに、今日はマフラーが恋しいほどの寒さです。

不安定な天気、気温で体調など崩していないでしょうか。どうぞご自愛ください。

2013年4月2日火曜日

大川心平個展-Drawing-

4月3日から、六本木にあるShonandai MY Galleryで、自身初となるドローイング展を開催いたします。
全て、アルシュ紙にコピックペンというシンプルな道具で描かれた作品です。

僕のドローイングは紙とペン先が触れ合う所から始まります。
その時点では描くものは決まっていません。
一つの点が、線となり、それを重ねていくとやがて形となります。
形は自身が存在できる世界を求めるので、その要求に従い僕はコラージュ的にイメージを組み合わせていくのです。するとそこには場所固有の意味が生まれます。
このようなオートマティスムの手法をとることで、僕の絵画は意識下の世界と接点を持つこととなります。そしてそれをできるだけ鮮明に描き出し、あらゆる個人的体験、社会的役割、文化的差異を越えた作品を創造したいのです。

タブローとは違ったアプローチで描かれた作品ですので、是非この機会にご高覧していただきたいと思います。
宜しくお願い致します。
大川心平 個展 -Drawing-
2013年4月3日(水)〜4月14日(日)
12:00〜19:00(最終日17:00まで)会期中無休
Reception 4月3日(水)17:00〜

Shonandai MY Gallery
〒106−0032
東京都港区六本木7−6−5 六本木栄ビル3F
TEL/FAX 03−3403−0103

http://www.shonandai-g.com/art/current_1.html

2013年3月25日月曜日

隻眼のダルマ

子どもの頃、テレビで湾岸戦争の映像を見ました。
蒼白い閃光を目で追っていると、なぜか涙が流れてきました。
僕は目に見えないものの正体が知りたくて、ダルマに叶いそうもない願いを込めました。
案の定、実現しなかったその願いは、今でも宙に浮かんでいます。

無理難題を突きつけられた隻眼のダルマは今どこにいるのでしょう。

2013年2月28日木曜日

ベランダ

夕方、ベランダから赤い月が見えました。
深夜、外の空気を吸いにもう一度ベランダに出ると、月は白くなっています。
そして、赤くなっていたときには満月に見えたのに、白くなると少し欠けていることが、とても重大な欠陥のように思えたのです。

2013年2月27日水曜日

水鳥と人


考え事をしながら、公園のベンチで池を見ていたら、水鳥が陸に上がってきました。
それがいかにも親しげな様子だったので、もしかしたら近くで撮影ができるかも知れないと思い近づいていくと、水鳥は慌てて飛び立っていきました。
僕は彼らを驚かせてしまったことを恥じて、その場所から立ち去りました。

2013年2月20日水曜日

白い部屋

換気をするために窓を開けると、空からハラハラと雪が降っていました。細かい粒は、強い風に煽られると、網戸をすり抜けて部屋にまで入ってきます。
雪が積もって外も内も白く覆われたら、きっと素敵でしょうから、窓はそのままにして、台所に珈琲をいれにいきました。
しばらくして部屋に戻ると、カーテンを少し湿らしただけで雪は止んでしまったようです。

実の所、僕は雪が部屋を白く覆わないことは知っていました。
だからその素晴らしい考えを絵に描くのです。

2013年2月16日土曜日

電信柱の使命

夜の公園から、延々と続く真っ直ぐな道。街灯が取り付けられた電信柱を見ていたら、僕にはまだ描かなくてはならないことがあるのだなぁと、ぼんやりと感じました。
大袈裟なようだけど、自分には使命みたいなものがあって、それに対する責任感で制作しているのだと思うのです。

2013年2月11日月曜日

雪と土地


ふと思い立ち、秋田に行ってきました。
しばらく街を歩いてからホテルに戻り、東京で描いていたドローイングの続きをしました。
今年は東京にもたくさんの雪が降りました。個展で訪れたソウルにもぱらぱらと雪が降っていました。土地によって雪の様子もずいぶん違っているようです。

帰宅後は東京で、雪の風景を描いています。

2013年1月30日水曜日

窓ガラス

風に吹かれて細かくなった雨が、窓ガラスを濡らします。
朝方には、雨音に取って代わり、サイレンの音が街に響きました。
月がまだ、雲間に浮かんでいます。

朝日に照らされた水滴は、窓ガラスに薄らとした跡となって残るでしょう。きっと。

2013年1月28日月曜日

いつも綺麗な月のこと

近所の公園を走りました。
今夜の月は真ん丸くて、白く強く輝いています。

長く見上げているとランニングフォームが崩れてしまうし、眩しすぎて嫌になってしまうから、公園内の大きな池に映して見ることにしました。

水面に揺れる月。
満月じゃなくても、十分に綺麗なのに、こんなときにだけ月の話をしたくなることが、とても卑しく思えました。

2013年1月18日金曜日

『子どものルール』


ソウルにあるGallery Godoで、個展『子どものルール』が始まりました。
韓国ではこれまで展覧会やアートフェアなどで作品を展示する機会は多かったのですが、今回は初めて僕自身も会場に行きました。
ギャラリースタッフやコレクターの方々と交流し、作品のコンセプトを直接伝えることができたことは、今後の仕事を考える上でプラスになったように思います。

お近くにお越しの際は是非お立寄りください。

会期 1月16日〜1月22日

Gallery godo
12 Susong-dong, Jongno-gu, Seoul, Korea 110 - 140
http://www.gallerygodo.com/exhibitions/shinpei2013/shinpei2013.htm