2017年8月8日火曜日

祭りの後

大きな橋を一本渡り、真昼の総合病院に行きました。そこは周辺のショッピングモールよりも混雑した様子で、静かな活気に満ちています。

診察を待つ人々は、血圧を測ってから、質素な椅子に腰掛け、順番を知らせるモニターをじっと見つめています。
気がつくと僕もその中に同化し、透明な存在として、診察番号が自らを表す全てであるかのように感じていました。

診察の順番は予定時刻を過ぎてもやって来ず、昼食を食べて待つこととなりました。
一階のカフェには空席がなく、僕は食欲もないまま三階のレストランに向かいました。
渡って来た川が一望できる席に座ると、すぐに店員が水を持って来ました。背の高い夏の雲を眺めながらその水を口に含むと、水はとても温く、ここが病院であることを思い出させました。

入り口に近い席には親子のように見える二人が向かい合って座っています。
微笑みを浮かべた老紳士に、手前の女性は「笑っている場合じゃないでしょ」と大きな声で責め立てていました。しかし老紳士は少しも表情を変えず、向かいに座った女性の背後をただ静かに見ています。
ここには何らかの病を抱えた人々が集っています。二人のうちのどちらが大きな病を抱えているのでしょうか。

川沿いの路肩に軽自動車が止まっています。側にはボンネットを開けて呆然としている水色のシャツの男が立っていました。
眼に映る全てのものが故障を抱えているかのように見えます。僕も水色のシャツの男と同じように、この状況になすすべなく立ちすくしているだけなのかもしれません。

病院の隣りの公園では櫓が建てられています。今夜は盆踊りがあるようです。この病院からどれほどの人が他界したのでしょうか。色とりどりの揺れる提灯。踊る魂。消えた肉体。

ラジオからは夜中に上陸する台風への警戒を呼びかける放送が流れています。
この街は祭りの後には雨の中でしょう。窓を叩く波のような風雨は、病院から届く彼らの鼓動のリズムと重なります。

どうか次の朝までこの波が途絶えませんように。

2017年8月5日土曜日

赤い自転車

赤い自転車を買いました。
大きく細いタイヤは僕を乗せて、一漕ぎするたびに鋭く風を切って進んでいきます。

現在の僕の心には生活における大きな充実感があります。
しかし日々の充実感を、生きる目的と混同すべきではありません。
世界がいかに美しくても、美術は存在理由を失わないからです。

セミの鳴き声は日ごとに強くなります。伸ばした腕は夏の日差しにジリジリと照らされ、シャツと肌との境界に跡を残しました。

いくら速く自転車を漕いだとしても、僕は僕から離れることはできませんが、心の中には永遠を想起させる地平が広がっています。

2017年8月4日金曜日

絵画の目



「絵画の目」

出展者
滝純一・河内成幸・大庭英治・三村伸絵・工藤晴也・樺山祐和・川合朋郎・藤田邦統・今井麗・大川心平・西村冨彌

2017年7月15日〜7月30日
10時〜19時

みぞえ画廊(福岡店)
福岡県中央区地行浜1−2−5
092−738−5655