2012年12月13日木曜日

『Relationship』作品解説

グループ展『Relationship』にお越しいただき、誠にありがとうございます。
来月にソウルで予定している個展の準備のため、在廊しないことが多いので、出品している新作の解説を書きました。
簡単ではございますが、読んでいただけたら幸いです。よろしくお願いいたします。


『絵のある生活』
眠りに落ちていく瞬間を描きました。絵で飾られた平凡な部屋が、眠りとともに実体を失い、溶けていく途中の風景です。
地面に転がっているモチーフは大きく分けて二種類のものがあります。一つはこの部屋の住人の生活用品。もう一つはパウロ・ウッチェロの作品に登場する馬具や武器です。パウロ・ウッチェロは絵画に遠近法を持ち込んだ最初の画家の一人です。彼の作品からモチーフを引用することで、絵画が生活に溶け込む様を表現しました。(それぞれのモチーフが一点透視図法のラインにそって配置されていることに注目していただきたいです。)

この作品は去年の9月から制作していたものです。このような形になるまでに環境や心情の変化が幾度となくありました。それに合わせて壁にかけられた絵画の種類も増え、部屋の形体も崩れ始めたのです。目覚めはいつかやってきて、部屋は形を取り戻すでしょう。そのときが来る前に筆を置くことにしました。

『休日の過ごし方』
公園で語り合っているカップルをモチーフとしました。彼らがこれから辿る道をおせっかいながら想像して描いたのです。
一見、幸福そうに見える彼らですが、互いの背後にあるものを知っていくことで、囲いが生まれ、行き場所がなくなっていることに気がつきます。
大きな窓からは、雲以外何も見えません。空には自由なイメージがありますが、そこから移動しようと思えば飛び降りるほかないのです。それはすなわち二人の関係性の終焉を意味します。
囲われるか、飛び降りるか。

この作品には彼らを救う二つのアイテムを隠しておきました。それを見つけることができるかは彼ら次第です。(お時間がありましたら皆さんも是非探してみてください。)

2012年12月2日日曜日

Relationship


『Relationship』

《出展作家》
横井山泰 東樋口徹 野依幸治 上條花梨 大川心平

12月10日〜12月22日
11:00〜19:00 ※日・祝日 休廊

〒104-0061 東京都中央区銀座7-10-8 第5太陽ビル1F
Art Data Bank
http://www.artdatabank.co.jp

TEL 03-3574-6771     FAX 03-3572-6655
e-mail   info@artdatabank.co.jp

2012年11月1日木曜日

夜の風景

家の近くにある水郷公園を走っていると、突然アレックス・コルヴィルの風景画を思い出し、足を止めました。

カナダの風景を描く彼は、いわゆる郷土の画家ともいえます。
ではなぜ僕は東京郊外の公園で彼の絵を思い出し、立ち尽くさねばならなかったのでしょうか。

コルヴィルは自分の周りの風景に必ずしも肯定的なものを感じていなかったと推測します。
生きることの滑稽さ、風景に飲み込まれることの背徳的な安心感。
画集を開くたびに込み上げてくる感情は、自分から目を逸らすなと僕に要求します。

以前ある先輩に、美術家は美術の生産者であって、消費者になってはならないといわれたことがあります。

画家にとって、美とはつくるものであって、受け取るものではないはずです。
そう信じながら今日も場末の薄汚れた壁を描きます。

2012年10月10日水曜日

『タイムカプセル』





叙述トリックの名手、推理作家の折原一さんの『タイムカプセル』という作品が、10月16日に講談社文庫から出版され、今回その装画を描かせていただきました。
少年少女時代へのノスタルジーと謎解きが合わさり、どんどんページを捲りたくなる作品です。
最も特徴的なのは、文庫でありながら袋綴じが用意されているということです。それが先を読みたいという欲求を駆り立てます。
多くの方にこの楽しみを味わっていただきたいです。

小説の装画は子どもの頃から憧れていた仕事でした。
それが折原さんとの偶然の出会いから、こんなにも早く実現できることになり、驚きと感謝の気持ちです。
初めて本を手にしたときの感動は忘れられないものとなると思います。
折原さん、また、講談社の野村様、本当にありがとうございました!

講談社文庫 『タイムカプセル』 折原一

よろしくお願いいたします!

2012年10月1日月曜日

台風と月

窓を開けると、家の前の道を自転車に乗った青年がゆらゆらしながら通り過ぎていきました。
今夜は風が強いです。遠くの街を台風が通過して、僕の住む街にもその影響が出ています。

最近は来年1月に予定している個展の準備をしています。ソウルでは久しぶりの展示です。
現在、韓国とは政治的にいい関係とはいえない状況ですが、文化はそういったものをこえてこそだと思います。
いい作品を見てもらいたいです。

強い風が分厚い雲を運び、空には白い満月が浮かんでいます。

2012年9月20日木曜日

蝉の一生

雲が西の方へ流れていきます。形を変化させながら、速度を上げて去っていく雲は、時折のぞく星空と相まって、非現実的な光景に映りました。

この街から見える北東の低い雲は、いつも橙色に染められて、その下で起きていることを周囲に伝えようとしています。
シグナルを受けて、そこに向かう人はいません。

そこにはいつまでもその場所にとどまり、橙色の灯を空に向ける人がいるはずです。
彼は自らの仕事の意味を知っているのでしょうか。
僕はそのことが気がかりでならないのです。

何年も前からシャッターが降りたままのレンタルビデオショップの前に、干涸びた油蝉が転がっていました。

季節の変わり目はいつも曖昧です。

2012年9月3日月曜日

鎌倉の展示のお知らせ

鎌倉にあるGallery YOKOでの『四人の作家展』という展覧会に、鎌倉現代 Art Projectの企画でNICHE GALLERYから出品させていただきます。
Gallery YOKOは、漫画家 横山隆一氏のアトリエを改装した、プールや桜の木が見えるとても素敵なスペースです。
鎌倉での初めての展示となります。よろしくお願い致します。

出展作家
好宮佐知子 篠原由香 大川心平 三瓶初美

会場 Gallery YOKO
   http://g-yoko.org/exhibition/index.html
   〒248−0012
   神奈川県鎌倉市御成町15−11
   鎌倉駅から徒歩2分

会期 9月7日〜9月14日(10日休廊)

時間 11時〜18時(初日は13時から、最終日17時まで)

2012年8月9日木曜日

第10回 中径展

8月14日から府中市美術館 市民ギャラリーで開かれる、中径展という展覧会に参加します。

学生時代からお世話になっている展覧会で思い出深いのですが、10年を区切りに、今回で最終回をむかえます。

他の展覧会とは違い、作家同士の研究会的な側面が強く、様々なことを勉強させてもらいました。
僕は100号の新作を出品します。
どうぞ宜しくお願い致します!


中径展 −think ahead−

〈出展作家〉
岩澤慶典 伊藤隆之 野依幸治 大川心平 瓜生剛 吉田晋之介 小池真奈美 三浦高宏 牧野真耶 廣川 惠乙 木下拓也 草野義則 井上新之介 森本玄 深澤健作

8月14日〜8月19日

府中市美術館1F 市民ギャラリー
〒183−0001
東京都府中市浅間町1−3

AM10:00〜PM5:00
初日はPM2:00から会場、最終日はPM4:00で閉場。

2012年7月20日金曜日

夏と鳩

駅のホームで電車を待っていると、足下に鳩が一羽やってきました。

梅雨もあけ、本格的な暑さがこの街を覆っています。

忙しなく何度も目の前を通過する鳩を見ていると、不意にその身体を捕まえたいという衝動に駆られました。

夏の熱気と鳩の誘惑で、僕はどうしていいのかわからなくなり、ただ目を閉じたのです。

2012年7月7日土曜日

川面の模様

雨の日に橋の上から川を見ると、波よりも細かい円形の模様が一面に広がっていました。
時折水中で何かが動く気配を感じます。

帰り道、川の中に棲む大きな蛇のことを考えていました。
川面の模様を鱗にした蛇は、一定の姿を持ちません。

2012年6月22日金曜日

マックス・エルンストについて

カーテンから漏れる光で目が覚めました。
部屋の温度計は27℃を指しています。
3つの窓から差し込む光が中央に置かれたガラスのテーブルを照らし、頭上にはグラスと読みかけの小説の影が映りました。

横浜美術館で開催されているマックス・エルンスト展を観てきました。
オートマティスムの技術を駆使して描かれた図像に、これだけはっきりとしたイメージを持たせるのには強い意志が必要です。
それは矮小なフェティシズムに支配されてはいませんでした。
彼はあくまで絵の現状に従い、冷静な判断を順を追って下していきます。そこには計り知れない熱情が込めていました。
確信的な仕事は僕にニコラ・プッサンやピエロ・デラ・フランチェスカを思い起こさせます。
彼は新しい古典を作ったのです。

窓を開けると、カーテンの動きに呼応し、天井に散らばった透明な破片が揺れはじめます。
エルンストの鳥が部屋にやってきました。

2012年6月18日月曜日

梅雨

僕の住む街が梅雨入りを迎えました。
季節は境界を行き来しながらも確実に前に進んでいきます。
雨が連れてきたメランコリーも気がつけば去っていることでしょう。

Shonandai MY Galleryでのグループ展にお越し下さった皆様、誠にありがとうございました!

2012年6月8日金曜日

MY Way 2012

六本木にあるShonandai MY Galleryで開催されるグループ展に出品します。
都内では久しぶりの新作の発表です。今回は空間の幅に重点を置いた制作をしています。是非お越し下さい!

MY Way 2012
石川美奈子 大川心平 高木まどか

6月10日(日)〜6月17日(日)
12:00〜19:00(最終日は17時まで)会期中無休
Shonandai MY Gallery
東京都港区六本木7−6−5 六本木栄ビル3F
http://www.shonandai-g.com/

2012年5月31日木曜日

午前5時、キッチン、珈琲

朝方になっても部屋の温度が20℃を下回ることはなくなりました。

時折自分の居場所がわからなくなったり、時間がわからなくなることがあります。
制作において、画面の場面に相応しいものをイメージしているわけですから、それは仕方のないことです。

珈琲をいれ、誰もいないキッチンで薄明の窓外を見ている時間。
寒くないということをとても心強く感じます。

2012年5月29日火曜日

雨の匂い

空気を入れ替えるために窓を開けると、雨の匂いが部屋に入ってきました。
季節が変わったのを感じます。

少し感傷的な気持ちになりましたが、高校生の時に何かの本で読んだ、感傷は芸術の敵だという言葉を思い出し、心を落ち着かせて絵に向うことにしました。

誰の言葉かも、そこにどんな意味が込められていたのかも忘れてしまったのに、それが未だに行動規範になっているのはおかしなことかもしれません。

2012年5月18日金曜日

間延びした街

外から雷鳴が聞こえてきます。最近は嵐の日が多いようです。
昼間は暑いくらいですが、夜には寒くなるので、着るものに困ります。

カメラを持って出かけました。
電車で40分。少し遠くの街です。

人通りが多く、整理された印象のある街ですが、今日はなんとなく間延びした雰囲気です。
これも一つの現実感なのでしょうか。

2012年5月12日土曜日

近況報告

特に変わったことはありません。
部屋で絵を描いています。

絵の言葉を聞くために耳を澄ませていると、その声色は自分と同じだと気がつきました。

2012年4月25日水曜日

黒い痕

暖かく、風のない午後。
外に出ると、頬に何かが触れた気がして、何の気なしに指をあてました。
薬指には潰れた羽虫。
バラバラになり、様々な方向をむいた羽や脚が、ベタリとついています。
この黒く湿った痕は、きっと判子のように右の頬にもついているはずです。
僕は持っていたハンカチで強く拭いましたが、今度はハンカチが酷く汚れた物に思えて途方に暮れました。

2012年4月23日月曜日

カーテン

最近、毎日同じ夢を見ます。

白いカーテンになる夢です。
日に照らされたり、雨に濡れたりします。

本当は巨大な虫にでもなれればいいのですが、現実は厳しいのです。

2012年4月10日火曜日

出航少女

4月14日から、京都にある蔵丘洞画廊さんで開催される『パンドラを覗く アートシェルフの出会い』というグループ展に参加させていただきます。
物語性のある作品をとのことで、舟の形をした小屋に少女が侵入していく絵を描きました。
イソップ寓話や、国芳、広重、フリードリッヒからの図像を引用して描いています。
僕はそこにイメージの旅を感じるのです。

小作品ではありますが、京都での初めての発表となります。
京都のような洗練された文化をもつ都市で、自分の地方色の強い絵がどのように受け取られるのかは、一つの挑戦でもあります。

宜しくお願い致します。

http://www.zokyudo.jp/

2012年4月7日土曜日

過去の街

場所にまつわる記憶が、眠れない夜によみがえってきます。

これまで、幾つかの場所で生活をしてきました。
今いる場所は、その中でもずいぶん安定しています。

ここ数日間、住んでいる街を自転車で見てまわりました。
よく知っている街です。
目新しいものは何もないのですが、今までより少し色褪せて見えるのは、過去の街となっているからでしょうか。

この街で生活することの意味を考えています。

2012年4月4日水曜日

混沌

昨夜の嵐は過ぎ去り、カーテンを開けると、穏やかな春の日差しが部屋に満ちていきます。

部屋に漂う混沌とした思考が、浄化されていくような気がして、僕は急いでカーテンを閉めました。
この混沌の中には、自分自身で向き合わなければならないことが、まだいくつか残っているのです。

2012年4月3日火曜日

朝日と鳩

カーテンを開けると、隣家の屋根に、鋭い朝日に照らされた一羽の鳩がとまっています。
凛とした様子で首を伸ばし、駅や公園にいる鳩にはない落ち着きをもっています。

しばらく見ていると、鳩の上を、雀が二羽飛んでいきました。

それを一瞥し、獲物を追うように飛び立つ鳩。誰もいなくなった屋根、空。

今日は午後から強い風が吹くそうです。

2012年3月29日木曜日

静かな夜

外では風が、常緑樹の葉を小さく揺らしています。

階段の曲がり角に腰を下ろして外の音を聞いていました。
静かな夜ですが、全くの無音ではありません。
時折大きな車が国道を走り抜け、遠くではサイレンの音が聞こえることもあります。

僕と同じように、こうして耳を澄ませている誰かが、この街にもいるはずです。

2012年3月26日月曜日

無題

電車を降りると弱い雨が降っていました。
昼は暖かくなってきたけれど、雨が降るとまだ寒いです。
それでも傘をさす気にはなれず、家まで急ぎ足で帰りました。

用事を済ませて部屋のソファーに横たわると、その日あったことが、本当に起こったことなのかどうかがわからなくなりました。
ぼやけた現実に、はっきりとした輪郭を与えなくては、呑み込まれてしまいそうです。

2012年3月14日水曜日

大きなもみの木、閉店した喫茶店、屋根のない駐車場。破けた緑色のフェンスが小さな森の入口です。
マーブル模様の枝、気絶したモグラ、蛇の抜け殻。中心には光の集まる広場があります。

子どもの頃に通っていた森を思い出していたら、珈琲が冷めてしまいました。
こんなふうに時が流れ、今ここにいるのです。

森があった場所には新しい家が建ち、知らない人が住んでいます。

2012年3月8日木曜日

僕にとってのデ・キリコ

不意にいろんなことが無意味に思え、投げやりな気分になることがあります。
僕はそんなとき、デ・キリコの絵を思い出すのです。

キリコの描く街角や部屋は、どんなにモチーフが詰め込まれていても、空っぽな印象があります。それは絵に時間軸や現実的空間を超えた設定をしているからでしょう。
空間を歪めると、そこには必ず隙間が生まれます。そこを彼は明暗を巧みに扱い、強い執着で埋めていくのです。
そうやって出来上がった絵は、宿命的な空虚さをもっているにも関わらず、どんな作品よりも鮮明な印象をあたえます。

キリコの絵は空っぽなものですが、そこには人間の生きている理由がこめられているのです。

2012年2月27日月曜日

大きな鳩

駅のベンチでぼんやりしていると、周りにたくさんの鳩が寄ってきました。
鳩は華奢な脚で太った身体を支え、首を前後に揺らしながら、忙しなく動き回ります。

鳩が嫌いな友人は、彼らを見ていると大きくなったところを想像してしまい、気分が悪くなるといいます。
巨大な鳩で混み合った駅のホームを歩くのは、確かに愉快な体験とはいえないかもしれません。

僕は今後、鳩が巨大化することはないと考えていますが、そのことを伝えても、彼の不安は解消されないのでしょう。

2012年2月19日日曜日

僕はサッカー選手になれない

大学4年のある日、23歳の僕は、深夜に海外のサッカー中継を観ていました。
とても精悍な選手たちが華麗なプレーを見せています。

その様子に引き込まれながら、僕はあることに気がつきました。

もう彼らのようなサッカー選手になることはできないだろうということです。

それまで、サッカー選手になりたいと思ったことはありません。しかし僕はどんなことであれ、自分の意図した将来を目指して生きていくことができるだろうと思っていたのです。
この気づきは僕に強い衝撃与え、それまでの自分とはまるで違った人間になったかのように感じました。

素晴らしいサッカー選手になることはもう出来ません。またそれ以外にも閉ざされてしまった可能性は多いでしょう。しかし同時に、画家としていい作品をたくさん残したいと強く思いました。

2012年2月14日火曜日

カラスの子

街に住むカラスは、針金のハンガーやビニールテープで巣を作ります。
ずいぶん昔から繰り広げられている風景です。

僕はそこで生まれたカラスの子と同じように、その巣に懐かしさや温かみを感じます。

2012年2月7日火曜日

今日のこと

雨は午後になるとやみましたが、そうかといって晴れ間がのぞくわけでもなく、すっきりしない天気が続いています。

考え事をしていると、誤ってパレット上の油絵具に手をついてしまいました。
油絵具はとてもひんやりします。
いろんな色を触ってみたくなったので、そのままパレットを大きく撫でてみました。
掌には、様々な色が混ざり合い、自分の手とは思えないほど美しくなります。

猫が窓の外で、笑っているのか、悲しんでいるのか、わからないような声で鳴いていました。

2012年2月5日日曜日

寝ぼけた街のグレー

週末の朝、電車で微睡む彼や彼女。
とてもきれいな色の服を着ています。

地下鉄の階段を上りきると、鋭い朝の光に目を細めました。
約束の時間まで、まだ少しあります。

僕のいない薄暗い部屋では、青く華やかな魚が、ゆっくりと尾びれを揺らしているはずです。

2012年2月2日木曜日

夕焼けグラウンド

午後4時、眠気を感じたので、部屋の空気を入れ替えるために窓を開けました。
昼間もカーテンを閉め切り、蛍光灯の明かりで絵を描いています。
カラスが2羽、南から北へと飛んでいくのが見えました。


僕の通っていた高校の隣りには大きな神社があります。
そこでは長い尾を持つ鶏を放し飼いにしており、僕は毎朝それを見るのを楽しみにしていました。

日曜日の夕方、グラウンドには神社から無数のカラスがやってきます。
赤い土、黒い鳥。
当時、暇を持て余していた僕はしばらくその様子を眺めていました。

最近、絵を描き始めたきっかけを尋ねられることが続き、自分なりに美大受験を決めた高校時代のことを思い出しています。

僕は子どもの頃からぼんやりとしたところがあり、あまり多くのことを覚えていません。
赤く染まったグラウンドにカラスのいる風景に意味はあるのでしょうか。

2012年1月27日金曜日

真夜中の路地

雪の残る道を、犬が歩いています。
最近の犬はあまり吠えません。少なくとも僕にはあまり吠えないようです。

青年が赤いロープを持ち、白くて大きな犬を導きます。
首輪は長い毛に隠れて確認できません。

銭湯が壊された空き地に、眩しいドラックストアができました。
この街に空き地ができると、決まってドラックストアかコインパーキングが建てられるのです。

ドラックストアには三角形の大きな駐車場があります。
そこは真夜中に犬が通る道です。

銭湯の亡霊、コインランドリーの右には狭い路地があります。
左右をブロック塀に囲まれた道。よく知っている道です。
塀の内に何があるのかはわかりません。

隅に集められている汚れた雪を蹴飛ばしました。
それはもう氷のように固まり、ただ鈍い音をたてたのです。

目を閉じると粉雪が宙に舞っています。
身動きも取れないほどの雪の壁。

冷たい空気は街灯の光をいつもより強く感じさせました。

2012年1月26日木曜日

寒い日が続いています。
夕方の雨が雪に変わり、瞬く間に街を白く覆いました。
雨音は消え、静かに雪は積もります。
しばらくすると遠くで雷が鳴り始めました。
それを合図に雪は雨に戻ったようです。

朝になり、窓ガラスについた結露を掌で拭うと、隣家の屋根にはまだ溶けきらない雪が見えます。

凍結した道路の上を、自動車が濁った音をたて、慎重に通り過ぎていきました。

2012年1月19日木曜日

地下鉄のホームで電車が来るのを待っていました。
目の前には煤けた壁。目線を下に移すと、小さな鼠が二匹見えます。

電車が到着するたびに吹き付ける突風も、彼らにはカーテンを揺らす微風ほどの印象も残さないのでしょう。

2012年1月15日日曜日

白黒猫

駅からの帰り道、太った白黒猫が僕の前を通過しました。
この街で見かける半分ぐらいの猫は白黒猫です。

猫は僕の視線に気がつくと、地面にゴロリと寝転びます。
それから立ち上がるとすぐに、近くの塀に飛び乗りました。

今日は気温が低いけれど、風がなくて、穏やかな一日です。

しばらく壁沿いを並んで歩きました。
歩く速度は僕と同じくらいです。
角にさしかかるとその猫は、こちらを見もせずに塀の内側に姿を消しました。

2012年1月8日日曜日

割れた鏡を元に戻す

部屋の絵を描いています。
去年の個展に出品しようと思い、制作していたものです。
直前に出品をとりやめたので、一度は未完のまま放置していたのですが、最近再び描き始めました。

部屋の壁に絵を立て掛けていると、時折、絵が話しかけてきます。
絵は気まぐれで、僕は振り回されながらも、その声にしたがって筆を動かすのです。

2008年、初個展のタイトルを「割れた鏡を元に戻す」としました。

キャンバスを鏡として捉えると、そこには自分や周りの風景が逆さまに映ります。
僕は鏡に投石し、バラバラに割れたパズルのようなガラスの破片を、裏返しに組み立てなくてはなりません。

しばらく作業を進めると、鏡のピースが足りないことに気づきます。

2011年は破壊的な現実を前にして、失ったものも多いでしょう。
失ったピースは想像力と技術で埋める必要があるのです。


本年も張り切って絵を描こうと思っています。何卒、宜しくお願い致します。