鴇色に染まった雲が棚引く空の下、住宅街を歩くと、長袖のシャツが冷たい風を通し、なにか心もとない気持ちになりました。
夕方の民家からはピアノの音が聞こえます。
辿々しいリズムは幼い子どもの姿を想起させ、僕は橙色の光があふれる窓に視線をおくりました。
風に吹かれて枯れ葉が舞います。
この街に代わりのない枯れ葉はないのかもしれません。
元の場所にはまた違った枯れ葉が落ちています。
何かを失っても、いずれ他のものがそれを埋めていきます。そこから去ったものも新しい場所を見つけるのでしょう。
移り変わる季節に取り残されることはありません。
時の流れは留まることを許さず、風に吹かれて転がる枯れ葉のように、その運命を受け入れるのです。
気がつくと、ピアノの音は風の声に変わっています。
風はこんばんはとさようならを同時に言いました。