2015年10月23日金曜日

静寂の底

昼下がりの小道、特別なことはなくても、不意に感じる匂いで、どこか懐かしい場所や時間に、意識が運ばれていくことがあります。
少しでも動くとまた忘れてしまうような感覚を、その良し悪しに関わらず、どうにか残せないものかと思い、立ち止まり耳を澄ませます。

いつもの曇り空。
近所にある友人の家の裏側には、フェンスに絡まる乾いた蔓がありました。茶色い実を指先で揉むと、黒い三角形の種が残ります。地面には固くなったプラスチックの容器の破片が散らばっていました。
僕はしばらくその様子を見て、衝動的に自分の家まで全力で走りました。

ここに隠喩はありません。これは物語ではないからです。

静寂は、耳鳴りよりも具体的な音を宿しています。そしてそれはいつでも過去からやってくるようです。