2015年10月30日金曜日

窓の内から虎猫が僕を見ていますが、少しも僕には懐こうとしません。
猫は縞模様のしっぽの先を、細かく揺らしています。

小さな庭には黄色いツツジが咲いていました。手前には誰も乗らなくなった赤いスクーターが雨ざらしになっています。そこに腰掛けると、シートの裂け目から雨水がズボンに染みました。

柿の木には秋になると必ず実がなります。
橙色の実を捥ぎ、ジーンズで磨いてから齧ると、口中に渋味が広がりました。
柿の木の下には、大きな鳥籠がかけられています。
中には白い文鳥が二羽、忙しなく動き回っていました。
地面には落ちた餌を狙って、雀がやってきます。

少年が小さな家の玄関で、赤いバットに顎を乗せて座っていました。
遠くの方では大きな蜂の羽音がします。

午後1時になると、近所から三味線の音が聞こえてきました。
電信柱の上では、鳩がとぼけた声で鳴いています。

窓際に置かれていた大きな白熊の人形は、今どこにあるのでしょう。
すでにここにはありませんが、捨てた覚えもありません。
人形は立ち去り、静かに旅に出ます。
遠くに聞こえる橋を渡る列車の音。僕の知らない街へと行ってしまいました。

母は家にいます。父は外で働き、姉は学校にいきました。
僕は石段に腰をかけています。

風が吹きました。頭頂部の髪が揺れます。
小さな世界がそこにありました。

これは最近思い出したことです。