2014年12月2日火曜日

街の裏側に住む人

自転車に乗って、乾いた風を切っていると、指先が冷たくなり、冬の気配が近づいていることを感じさせます。

考え事をしながら隣りの街まで向っていると、ふと知らない路地を見つけました。
緩やかにカーブしているその路地を進み、突き当たりを左に曲がります。
しばらくすると犬の散歩をしている黒い服を着た中年の痩せた男性がいました。
くたびれた様子の老犬は足取りが重く、しばしば飼い主が立ち止まり、歩むペースを合わせています。
彼は決して犬の方を見ることはありません。ただ双方の日常を繰り返しているように見えました。
僕には彼が話しているところがイメージできませんでした。それどころか、顔さえ思い浮かべることができないのです。
この世界では、僕は闖入者であり、彼には僕の言葉が通じないでしょう。
僕はそっと街の裏側に入り込み、道を忘れた振りをします。
そして迷ったそぶりで辺りを見渡し、密かに目でディティールを拾いました。

親しく感じられる隣人でも、同じ考えを持っているわけではありません。
普段はそこから目を離していますが、知らない路地を曲がることで、そのことを再認識させられます。隣人のなかに知らない思考の路地があることは、時に僕を怯えさせ、殻に閉じこもりたいような気持ちにさせますが、そこに知らぬ顔で石を投げたり、音を響かせたりする作業は、美術の役割の大切な一つだと感じます。

夕日でピンク色に染まった街。
横断歩道の端に、車に轢かれた小さな猫が死んでいました。
カラスが数羽集っています。

2014年10月14日火曜日

白黒の蜘蛛

僕の部屋には白黒の蜘蛛が住んでいます。時折姿を見せ、様子を目で追っていると、するするとどこかに消えていきます。

台風が過ぎ去ったあと、玄関の吹きだまりには、落ち葉や空き缶に混じって、乾いた蝉がころがっていました。
夏と秋が繋がり、直に冬へと移行していきます。そのときにはこの蝉も消えてしまい、僕は取り残された気持ちになるでしょう。

窓からは金木犀の香りを孕んだ風が吹き込みました。
カーテンの裏にいた白黒の蜘蛛は驚き、自らの細い糸でゆらゆらと揺れています。

2014年9月10日水曜日

犬の去った日

午後18時、林とマンションの間に橙色の月が浮かんでいます。
今年は例年よりも少し早く秋が訪れました。
長袖のシャツを身に纏い、街を歩きます。

幼い日の感情の揺れが今でも描く動機となるときがあります。
先日、「犬の去った日」という小さな絵を描きました。
風に吹かれた高台の空き地に、放置された犬小屋があり、その側に立つ少年が、ただ遠くを見つめている絵です。

街の様相が普段と違って見えるのは、季節の変化だけではないようです。
自分の描いた絵に運ばれて、僕もいつかはここから去る日がくるのでしょうか。

2014年8月13日水曜日

孤独の空

地下鉄のホームに迷い込んだ、透明な羽を持つ蝉が、屋根と壁との境で、じっと息をひそめていました。

彼は誰に届くことはなくとも、高く勇ましく鳴くべきです。
なぜなら、広い空は孤独の中にしかないのですから。

2014年8月12日火曜日

暑気払い笑う百人展

毎年恒例となっている、NICHE GALLERYでの賑やかなグループ展に出展いたします。
僕は2011年に描いた未発表作をリメイクした、F6号の油彩である『K区ミリオン』という作品を発表します。
暑い日が続いておりますが、どうぞご高覧ください。

「暑気払い笑う百人展」

8月12日(火)〜8月16日(土)
11時〜18時30分
NICHE GALLERY
03−5250−1006

2014年8月7日木曜日

『2014 TOKYO NICHE GALLERY ZHENGZHOU CONTEMPORARY ART EXCHANGE EXHIBITION』

中国の鄭州という都市にあるSEED ART  GALLERYでのグループ展に出展しております。


『2014 TOKYO NICHE GALLERY ZHENGZHOU CONTEMPORARY ART EXCHANGE EXHIBITION』

SEED ART GALLERY(Zhengzhou/China)
7月24日〜8月24日

出展作家
出射茂、明円光、仙石裕美、上田暁子、門田光雅、大川心平

よろしくお願いいたします。

美じょん新報 第178・179号

美じょん新報 第178・179号に、みんなのギャラリーでの個展のレビューを書いていただいきました。
主筆の瀧悌三先生が、個展会場でメモをとられている姿を見ると、毎回少し緊張します。ありがとうございました。

ビジョン企画出版社 「美じょん新報」
第178・179号 8月1日発行

よろしくお願いいたします。

2014年7月16日水曜日

道に迷う

ソファーに横たわり、窓の外を眺めていると、遠い夏の記憶がよみがえりました。

真夏日、30度をこえる室温が、現在に留まろうとする意識を弱らせます。
なす術無く、押し寄せる記憶の波に身を任せました。

炎天下の裏道。どぶ川を渡すコンクリートの柱。
何処からともなく聞こえてくる、嵐のような蛙の声。
雨の予感。

背の高い雑草を引っ張ると、掌が露で濡れました。
擦っても消えない青い匂い。
僕はそこら中に生えている草を蹴り上げます。そして宙に舞った埃をくぐり、ただ走りました。


僕はあまり地図を見ません。
道に迷わなければ、この場所から離れることができないからです。

2014年7月11日金曜日

僕の街

嵐が過ぎ去り、日が射します。
台風が東京に夏の空気を送り込みました。

午後6時、東の空、鉄塔がオレンジ色に照らされています。

強い光と濃い影のコントラスト。
デ・キリコの街。

僕にはやるべきことがあります。
自分の街を描かなければならないのです。

2014年7月1日火曜日

個展『街の背中』が、6月29日に終了しました。
今回の個展では、街に住む人々の営みを描いたポートレイトシリーズや、現実と絵画を繋ぐ立体作品を、初めて展示しました。

展示タイトル『街の背中』とは、街の表面にある、住居や店舗などという機能的な部分の裏側をあらわしています。街の機能的な部分を「街の顔」とし、その裏にある街の気配を「街の背中」と名付けたのです。

そして個展の出品作には、「街の顔」に顔がないのであれば、「街の背中」に顔があるのではないかという仮定をもとに、すべてどこかしらに顔を描き出しました。

顔を描けば描くほど、僕は街の中に入り込み、よく知った街の外観を望む視点から離れていきました。
内部はとても余所余所しく、僕はそこに居場所を見つけるために、自分の中を探りました。自分の中には他者がいて、彼らはとても自分と似ていたのです。

僕の視点や仮定は、あまりにも私的なものかもしれません。しかし、僕は自分の描いた人々や建物は、他者の心の奥に眠っているという可能性を信じています。

ご高覧してくださった皆様、また、僕の絵を信じてくださっている方に、ここで感謝の気持ちを伝えたいと思います。

誠にありがとうございました。

2014年6月21日土曜日

大川心平 個展 -街の背中-

大川心平 個展 『街の背中』

2014年6月18日(火)〜29日(日)
12時〜20時
※6月23日(月)は休廊致します。

みんなのギャラリー
東京都千代田区平河町1−1−9 2F
03−6268−9658

地下鉄半蔵門駅から 徒歩1分

インスタレーションを含む新作13点の展覧会です。
ご高覧いただけますようよろしくお願いいたします。

2014年6月9日月曜日

雲の下

窓の外を眺めていると、幼い頃のことを思い出したりします。

ある日、父と車で出かけると、車窓から大きな雲が遠くに浮かんでいるのが見えました。
雲の下には、何があるのかと父に尋ねると、そこには海があるのだと答えました。

海に浮かぶ漁船。雨に気付いた乗組員が船外へ出てきて、何やら会話を交わします。僕はそれを無声映画の一場面のように上空から眺めました。

2014年6月1日日曜日

先日の雨

雨の休み時間。
濡れた窓ガラスで歪んだ雲。
耳を澄ませば、人の気配がします。
上空を飛ぶ鳥の影が、ガラスのテーブルに映りました。
矢印のアンテナが遠くに見える青空を指しています。
車のエンジン音、鉄橋を渡る電車。

風が電線をゆっくりと揺らしました。

2014年4月30日水曜日

最近のこと

窓の外では雨が降っています。
洋服の整理をしようと思い、クローゼットを開けると、そこにはまだ冬の空気が入っていました。

ここしばらくは、自分の内と外との区別がつかず、周りの些細な変化がとても重大なことに思えたりします。

2014年2月9日日曜日

『夜の虹彩』




瀬名秀明さんの短編集『夜の虹彩』の装画を担当させていただきました。

ふしぎ文学館シリーズの51作目となります。
現実の側にある不思議に、心がひんやりする本です。

カバー装画には2010年に制作した「ノスタルジア」という作品を使っていただきました。
擬人化した枯れ木が大きな風景を抱いており、周辺には人が居た痕跡があります。ノスタルジックな物語をイメージした作品がこのように小説の装画となり、書店に並んでいることが、自分にはとても不思議です。
よろしくお願いいたします。


出版芸術社 ふしぎ文学館 『夜の虹彩』瀬名秀明 著

2014年2月1日土曜日

冬の音

夜の地下道を歩いていると、どこか遠くの方から、水の流れる音が聞こえてきます。
そちらに気を取られていると、目の前を鼠が無遠慮に横切りました。
気力を奪われた僕は、周りに人が居ないことを確認してから、何となく水の音を追うように、口笛を吹きました。
なぜこの道はこんなにも暗いのでしょう。東京は輝きを取り戻しているはずなのに、この道は未だ悲しみの中にあります。

地上に上がると、そこには川が流れていました。近くのオフィスには、フロアの所々に、残業をしている灯りが点り、それが川面に揺れています。
それぞれの役割を持った灯りが点っていますが、僕にはそれを知る由はありません。

外気は痛いほどの冷たさにもかかわらず、ポケットに突っ込んだ手が汗ばんでいます。
僕はため息を飲み込み、踵でアスファルトを打って、人通りの少ないビルの間に、足音を高く響かせました。

2014年1月28日火曜日

アートコレクターズ2月号

1月25日発行の月刊アートコレクターズ2月号に、12月に開催した個展『拾った日記の続きを書く』のレビューを掲載していただきました。
展覧会レポート 編集部の「これが欲しかった!」(P96)というコーナーです。
主に街全体を描いた横幅9mの作品について書いてもらっています。
宜しくお願いいたします。

月刊アートコレクターズ2月号

2014年1月23日木曜日

美じょん新報 第172号

1月20日発行の「美じょん新報」紙上で、昨年12月に開催したNICHE GALLERYでの個展の評論を、瀧梯三先生がしてくださりました。
若い作家の背中を押してくださるような文章に、とても励まされました。
今後の制作へと向かう力となります。

ビジョン企画出版社 「美じょん新報」
第172号 1月20日発行

宜しくお願いいたします。