2011年1月20日木曜日

黒い煙

朝方、近所を散歩していると、知らないおじいさんに声をかけられました。
「この辺りで黒い煙があがっていたのだけど、知ってるかい?」

僕にはまるで心当たりがなかったのですが、10分程、彼と歩くことになりました。
幼少の頃から、知らない人には付いていかないようにと教育を受けてきたのですが、黒い煙の誘惑に負けて話し込んでしまったのです。

大きな空き地沿いの道路で、燃えるようなものは何も見当たりません。

彼は天気や定年後の趣味の話をしてくれました。切り絵をやっているそうです。
僕も油絵を描いてるというと、若いのにいい趣味だねと褒めてくれました。

なかなか楽しかったのですが、家が近づいてきたので、黒い煙の話に戻そうとすると、「ではまたどこかで」と言い残し、道沿いの交番の中に入っていってしまいました。

黒い煙の向こうに、おじいさんの笑顔が見えます。
再び会うことは、おそらくないでしょう。
次第に彼と煙が混ざり合い、ついには思い出せなくなりました。